「切なく悲しいし熱い思いは伝わってくる…けどそれこそが敗戦の原因…を体現した宮城事件」日本のいちばん長い日 閑さんの映画レビュー(感想・評価)
切なく悲しいし熱い思いは伝わってくる…けどそれこそが敗戦の原因…を体現した宮城事件
「ヒトラー 最後の12日間」とあわせて鑑賞。日独で同じ時期をテーマにした映画なのに全然違っていて、かつそれぞれの国柄がでているのが面白い。
「日本のいちばん長い日」ではポツダム宣言から受諾が決まるまで、延々と会議が続き誰もが決めきれない。陸軍と海軍はまるっきり逆のことを言ってるし、鈴木貫太郎首相もいまいち頼りない。会議は延々細かい文言の話だの、みんなで歌を歌うだの緊張感に欠ける。阿南陸相も役所広司はかっこいいけど言ってることは無茶苦茶、陸軍省内の暴発を避けたいのは分かるけど部下にきっぱりとは言えずあの手この手でなんとか乗り切ろうとする。内閣も陸軍省もなんとなくな空気で動いてる、そして一部が空気を自分に都合のいいほうに解釈して勝手に動く…そんなまさに日本的組織。
そんななかで聖断を下す昭和天皇の存在は一縷の光明というか、唯一の良心みたいな存在感がある。それでもよく言えば気配り・心配り、悪く言えばどっちともとれるふわっとした指示・発言が多く、感情を発しないのも相まって、責任者なのか責任者じゃないのかイマイチパッとしない。「ヒトラー 最後の12日間」を見た後だと、取り乱したり暴言吐いたり色々しつつもトップとして「俺が動かしてるんだぞ!」というヒトラーとの違いがありありと出ていて面白い。
そして、じゃあ天皇が決めたことなのでみんな従うかといったら、東條英機(元首相が!)が率先して「諫言するがそれが通らない場合は強制しても初心を断行する」なんて言ってしまう始末。昭和天皇、トップとして信頼されてない…(まあ史実なんだけど)。そしてその発言にたきつけられた熱い思いにたぎる若手将校たち。畑中少佐を演じる松坂桃李はなかなかの演技で、青筋たてるとか演技でできるんだな…と変なとこで感心した。しかし彼らは熱い思い「しか」ない。宮城突入までの作戦はかなり杜撰だし、蜂起すればほかの軍も同調してくれるというのも希望的観測にすぎず何か作戦や根回しがあるわけでもない。そもそも決起が成功していてもその先は本土決戦、国民2千万人が総突撃すれば勝てるなんて話だったけど、最後に放送局に押し入った際、局員は誰も協力せず一人ぼっちで決起を呼びかける虚しい姿…。ホントに熱い思い「しか」ない(陸軍的には必勝の信念ってやつか、まあほぼほぼ史実どおりなんだけど)。
で、蜂起の失敗と阿南陸相の切腹でこの映画は終わるが、映画では切腹そのものに焦点が当たっていたが史実では「全軍の信頼を集めている阿南将軍の切腹こそ全軍に最も強いショックを与え、~大臣の自刃は天皇の命令を最も忠実に伝える日本的方式であった」といわれ自決の結果、徹底抗戦や戦争継続の主張は止んだそうな。現代人には今一つわかるようなわからないよう感覚…。
「ヒトラー 最後の12日間」のほうと比べると、すべてがあいまいにもやもやとストーリーが進んでいく実に日本的な敗戦を現した映画だと感じた。