「映像化するということに対する真摯な姿勢」屍者の帝国 Anubisさんの映画レビュー(感想・評価)
映像化するということに対する真摯な姿勢
原作については伊藤 計劃氏の分量が少ないので読まず嫌いをしていた『屍者の帝国』、『虐殺器官』の延期に伴い公開が早まった為、仕方なく原作未読の状態で視聴する運びとなりました。たまたま映画館でやっていたので。
そして、作品の持つ圧倒的な熱量に感動し、気づけば帰りに原作を購入し、その日の内に読了しました。更に次の日にもう一度映画館に足を運び視聴し、既読後の視聴も完了。
小説の映像化は大変です。情報が多く、各々のイメージ世界がある為、映像化する際に情報の劣化は避けられないです。この作品はその問題に真っ向から立ち向かってます。その姿勢は逃げではなく攻めです。
詳細はネタバレを控える為敢えて触れません。ただ、一つ言うのであればこの作品は原作未読で見る方が良いということ。
映像化の結果として、原作とは全くの別物に仕上がってます。本来であれば原作改変! ギルティ!となる程の大きな改変ですが。その理由も見れば理解できます。当初の原作通りに脚本を作ったら倍以上の尺が必要になったとインタビューにある通り、尺を収めつつ映像だけで原作未読者にも原作が伝えようとしたことを別のアプローチで提供する為の方策というわけです。原作はあんま映像映えするシーンが少ないので、敢えて映像映えするアクションシーンを増やしているのも評価ポイント。
映像・音楽・演出については、非常に高水準で纏まってます。すばらしい背景にダイナミックなカメラワーク、階差機関やガジェットのケレン味溢れる動作とデザイン、どれをとってもすばらしい。スチームパンク好きにはたまらないでしょう。キャストの演技も違和感ないです。収録にも力を入れていたことがインタビューから分かります。予算と時間と何より良い作品をつくろうという熱意の為せる技でしょう。
気になった点としては、グッドルッキングガイ達の顔が近かったり、裸が多かったりと、ぱっと見、ホモアニメに見えるところです。どうしてもそういう雰囲気が許容できない人にはオススメできません。
総評として、見るべき作品。見た後に原作を読むとなおさら良い。ちなみに、私は原作より映画の方が好みでした。原作はオマージュが多く前提知識が必要なので、いきなり原作から読むのは敷居が高いです。映画を見ていれば割とスンナリ読めるのではないでしょうか。
なお同projectの『ハーモニー』は残念でした。