「理屈抜きの冒険活劇」屍者の帝国 sus303s45cさんの映画レビュー(感想・評価)
理屈抜きの冒険活劇
普通のアクションアニメでした.
Project Itoh第一弾ということで昨年から期待していた作品ですが,予想以上に普通のアニメに仕上げてきたと思いました.
原作は未読でしたが,何となく言わんとしていることは分かりますし,視聴者を置いてけぼりにしないような配慮はされていると思います.
この作品のみ円城塔氏と伊藤計劃氏の合作が原作であり,円城塔氏といえば『スペース☆ダンディ』で難解な脚本を書いていたことが記憶に新しいです.同作品でも,難解でありながら繰り返しみるとスルメのような味わい深さがあり,円城氏の魅力がありました.
一方で,本作はそのような難解さは極力排除しており,分かりやすい人間関係と派手なアクションシーンを前面に押し出してきていました.そういう意味で期待外れではありましたが,十分な品質のアニメには仕上がっているのではないでしょうか.
良い点としては,美術デザインです.19世紀らしい小道具をSF的にアレンジしているのは見事です.屍者の首筋につなぐプラグは『攻殻機動隊』や『マトリックス』へのオマージュを感じさせながらも当時ありそうな痛々しさも残しており,しっかりと作り込まれていると思いました.パイプオルガンを使用した音楽など雰囲気作りもバッチリだったのではないでしょうか.
閉口した点としては,唯一の女性キャラクター「ハダリー」でしょうか.いかにもなプロポーションと服装で,何か理由があるのかと思えば,特に何もなかったのでただの目の保養狙いだったのかと感じました.説明不足はここだけではないのですけど,主要キャラクターで絵面的に浮いていたのを放置するのはどうなのかなと思いました.
あとは,時代設定でしょうか.前半の19世紀のロンドンや古来の戦争シーンからスチームパンクへのワクワク感を高めておいて,クライマックスの超技術連続は逆に興ざめを誘う要因になると思いました.主人公ワトソンの結末を考えると妥当ではある設定ですが,その肉付けを現代的におこないすぎている印象を受けます.
総評すると原作者から予想したものとは違うけれども,一見さんでも楽しめるように仕上げた作品となります.全体的にマイルドにしている分,中毒性のようなものはなく,誰でも楽しめる普通の作品に仕上がっていると思います.
少なくとも,原作を読んでみようという気分にはなると思います.