「生きる意味を教えてくれる電話が鳴るのを待ってる間にも、歳は取っちゃいますよという『ゼロの未来』の話」ゼロの未来 ウシダトモユキさんの映画レビュー(感想・評価)
生きる意味を教えてくれる電話が鳴るのを待ってる間にも、歳は取っちゃいますよという『ゼロの未来』の話
そんなに面白くないです!でも大好き。
テリー・ギリアム作品のうちでは不動のベスト『バロン』に次いでのお気に入りになりましたねー。
鑑賞前とか、映画の序盤では「またお得意のディストピアSFなんだろうな」と思ってました。
テリー・ギリアムの世界観が楽しめるなら、それを味わえるだけで充分ですけど、
本作は「ディストピア描写によって現代社会に警鐘を鳴らす」ってタッチじゃなくて、「テリー・ギリアム風にデフォルメされた現代ネット社会で、主人公がどういう生き方を選択していくか」という、なかなか考え甲斐のあるお話でした。
加えて本作はヒロインがヨカッタ!メラニー・ティエリーという女優さんは僕は初見ですけど、
絶妙なちょいバカ加減、絶妙なちょいブス加減、絶妙なちょいポチャ加減のゴールドブレンド!
これが例えばエマ・ストーンみたいなガチ美人だったりすると、VRな存在感になってしまってダメなのです。ホントにヨカッタ。
ちょっと心が疲れた時、このビーチの場面を何度も観返したいですね。
お話のテーマについては、テリー・ギリアム監督ご本人がインタビューで語ってますけども。
「“ゼロの定理”を解析するお仕事」を「ブラック企業で働くこと」と捉えてみたり、「ネトゲやSNSにアイデンティティを置くこと」と捉えてみたり、「宗教を求道すること」として考えてみるのもオモシロイと思います。
光ファイバでつながる「安全な」疑似恋愛や逃げ場所、「人の名前なんて全部ボブでいいじゃない」という人間関係、語りかけながら後をついてくる広告の氾濫、ある日突然「もう君は必要ない」と切り捨てられる虚しさ、生きる目的を教えてくれるのを待ち続けること…映像はSFですけど、語られてる内容はふつうに身の回りに溢れているライフスタイルですよね。
僕がこの映画でいちばん印象的だったのは、主人公が自分を「我々」と呼んでいたこと。いかにもネットの匿名文化とか、逆にSNSの友達文化とかで「私」を通しづらい空気を表してるなぁと感心しました。