「.」ゼロの未来 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅で鑑賞。原題"The Zero Theorem"。過度にコンピュータに依存した近未来、C.ヴァルツ演じる自閉的な“コーエン・レス”が無(ゼロ)の証明と共に様々な人と接し、心を開いていく物語。M.ティエリーの“ベインズリー”のエロサイトのデザインやその先の浜辺の張りぼて感は昔の監督のまんまだし、小型の電気自動車が行き交うゴミゴミした街並み等、ゴチャゴチャした中にどこかレトロな雰囲気を残すビジュアルは紛う事無きT.ギリアム印で大満足。ただ一見すると難解なストーリーは好みの分かれる処だろう。75/100点。
・一人称が複数形の“我々”から単数形の“私”になり、マンコム社のホストコンピュータは倒壊、女性器を思わせるブラックホールに飛び込むラストは、VRの浜辺で或る種の理想だった姿──髪が本来の坊主頭に変わり、オープニングと同じ全裸になっていたので、ヴァーチャルからリアルへと心の在り場所が変化(再生)したと解釈した。
・そもそもは監督が自身の『未来世紀ブラジル('85)』の焼き直しを作りたい想いから企画が始まった。男性が女性を救い出しに行く旧作に対し、本作では男女の役割が入れ替わっている。他にもプロットやビジュアル、ディティールの細部等、この二作には意図的だと思われる共通点が多い。
・L.ヘッジズが演じた御曹司“ボブ”は、周囲の他人の誰もを“ボブ”と呼んでいたが、『12モンキーズ('95)』にもB.ウィルス演じる“ジェームズ・コール”に“ボブ”と話し掛ける“男の声”と云う似たキャラクターが登場していた。
・街頭を走る小型自動車は、'11年にルノーがリリースした電気自動車"Twizy"である。亦、歩行者を追尾する電光掲示板の女性(勧誘広告)は、実用に向けた開発が進められている技術である。
・撮影は九箇所で行われ、全36日間の内、28日間がスタジオで行われた。大まかなスケジュールは、'12年8月13日に撮影が開始され、'12年10月22日に修正や追加撮影、ポストプロダクションに回された後、'12年12月4日に完成した。
・監督によると、VRの浜辺のシーンはF.ジンネマンの『地上[ここ]より永遠に('53)』を参照したと云う。亦、当初B.マーレイにも何等かの役でオファーしたが、スケジュールの都合で実現しなかったらしい。
・鑑賞日:2016年3月24日(木)