「彼女の写真は涙が込み上げるほどの温かさで満ちている」ヴィヴィアン・マイヤーを探して ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女の写真は涙が込み上げるほどの温かさで満ちている
偉人や偉業を描くでもなく、このドキュメンタリーが光を当てるのは名もなき乳母だ。彼女が撮り貯めた膨大な写真の山。それを偶然発見した本作の監督。どのショットも美しく、構図も素晴らしく、何よりも被写体への温かみ溢れる視座がある。本作はこれまで誰にも見られることなく眠り続けてきたモノクロ写真をディスカバーするのと同時に、今は亡き「名もなき写真家」の素顔を少しずつ解明していく。芸術の分野では生前よりも死後にその作品が評価されて名声を高めていくケースがあまりに多いが、本作に触れることはそのダイナミズムを現在進行形の文体にて体感することでもあるのだろう。ヴィヴィアンの素顔が決して聖人君主ではないところや、「果たして彼女のことを世に知らしめてよかったのだろうか?」と自答する監督の胸中も含めて、非常に素直で正直な映画だと感じた。そして、何度目にしても彼女の写真はどれも時代と文化と人物を優しく切り取っていて、涙がこぼれるほど素晴らしい。
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