オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分のレビュー・感想・評価
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情けない痴話がこんなにもエキサイティングに!
ある夜、愛する妻や子供がいる家を出て、車で高速道路を走るひとりの男。土木工事の現場監督で、明日はバカでかい基礎工事が控えていて、今夜は家族と大事な約束もある。それなのに、一体男はどこに向かおうとしてるのか?
マジメそうな庶民が、突然不断の決意をして、家族にも仕事にも背を向けるこの映画。いや、車を走らせながらあちこちに電話をかけて、あらゆるトラブルや綻びを収めよう必死に努力はするのだが、状況は悪化するばかり。全編車の中で繰り広げられる、スリリングなブラックコメディと呼ぶべきだろう。
主演のトム・ハーディ以外は電話の向こうの声だけで誰一人顔が映らないのだが、共演者は『スパイダーマン ホームカミング』のトム・ホランドだったり『女王様のお気に入り』『フリーバッグ』のオリヴィア・コールマンだったりとかなり豪華。そして、ものすごく小さなスケールのお話ながら、とっちらかったことをしでかす一般人の一生懸命から目が離せなくなる。観る人を選ぶ作品だとは思うが、自分のようなダメ人間映画好きには中毒性があるくらいハマる。
【私生児と思われる男が、一夜を共にした女性の出産に立ち会うために、家族、仕事を犠牲にしてでも夜中のハイウエイを疾走する姿を描くトム・ハーディファンには堪らない作品。】
■建築現場監督としてキャリアを積み上げてきたアイヴァン・ロック(トム・ハーディ)。仕事を終えて自宅に向けて走りだす。
そこへ且つて一晩だけ共にしたベッサン(声:オリヴィア・コールマン、聞けば分かる。)から1本の電話がかかってきてアイヴァンの気持ちは揺らぐ。
行き先を変更したアイヴァンは、家族にはうそで塗り固めた電話をし、翌日からの大規模工事の指示を部下に出す。
◆感想
・画はほぼ総て、トム・ハーディ演じるアイヴァン・ロックの車中での姿である。
・彼は、一晩だけ共にたベッサンの出産に立ち会うために車を飛ばす。
ー 途中で明示される彼の会社からの解雇。そして、妻カトリーナからの別れの言葉。-
■だが、彼は仕事に対しては適切な指示を部下に出す。そして、彼が屡々口にする父への想い。このセリフから彼が、私生児である事が容易に想像できるのである。
彼が、私生児として苦労して来た背景は一切描かれない。
だが、彼が自身の私生児のために、全てを投げ打ってベッサンの病院へ向かうシーンや、家族、仕事仲間からの電話に的確に対応する姿が印象的な作品である。
<結論:今更ながらトム・ハーディって、良い役者だなあ、と思った作品である。>
特殊な映像、だからこそ描けた人間
高速道路と車内という空間が、こんなに面白いとは!
後戻りはできず、一定の速度で進むしかない一本道。
外界の景色は、夜の闇と等間隔な街灯の光による、抽象的でぼんやりとした存在だけを現しながら流れてゆく。
車の中は自己の領域。他者とのほとんど絶望的な隔たりの中、電話だけが社会とつながる頼りないスポークとなっている。後部座席は闇が亡霊のごとき不安感をたたえ、父のカゲが投影される。
高速道路の場面だけで構成するというのは、奇をてらっていると見られそうだが、こうすることでしか描けない情報が確かにあったのだと思う。高速道路の場面の前後が映らないために、車内の狭さと合間って、より閉塞感、束縛感が肥大化し、彼の苦しみがずしずしと響いてくる。
話し相手の姿が見えないことであぶり出されるのは、不安も焦りも全て自分の社会的立場に対するものだということだ。通話以外、他者と隔たっている中で、社会の中から自己が区切られ、浮かび上がる。社会的な関係性の状況に照らして自己を捉えられるという、自己認識・評価の一つの本質が見いだせる。
それにしても、いつだったろう、私もこんな経験をした気がする。
いくつも重大なタスクが重なって、焦り混乱しそうな自分に鞭打ちながらなんとか対処しようとする深夜だ。出産とか工事の監督みたいな大きいことではなかったはずだが。
そんな中、ミスが起こったり、一定で進む時間のどうにもならなさを嘆いたり、自分の能力の限界に苛立ったり…そんなめまいのするような一時の情景が、記憶の奥から浮き出しそうだった。
実はそういう経験のある人って、少なくないのでは。
地味なのに面白い
運命のハイウェイ
一人の男が夜のハイウェイを車で走る。電話でやり取りしながら。
ただそれだけなのに、男が破滅へと走っていくサスペンスフルな作品として成り立っている。
男の名は、アイヴァン・ロック。
家族あり。
家では子供たちが父親と一緒にスポーツ観戦するのを楽しみに待っているようだが、アイヴァンは仕事を終え、帰宅する…訳ではないようだ。
では、何処に向かっている?
アイヴァンは有能な工事の現場監督。
翌日、大規模な作業が控えている。
その前日にも拘わらず、上司や部下から電話が掛かって来ようとも、ひたすら車を走らす。
彼が向かっているのは…
ロンドン。
以前たった一度だけ関係を持った女性が妊娠し、今病院に居て、まさにこれから出産しそうなのだ。
それに立ち会う為に。
言うまでもなく、不倫。
この夜はアイヴァンにとって人生の別れ道。
電話で妻に全てを打ち明けるが…
妻は大激怒。ヒステリックにもなり、アイヴァンを家から追い出すとまで言う。
さらに、仕事関係の電話が。トラブル発生。電話越しに対応するが、部下は困惑し酒を飲み始め、しびれを切らした上司から解雇通告が…。
さらにさらに、ロンドンの病院から電話。へその緒が胎児の首に絡まり、危険な状態。不安がる不倫相手の声…。
妻をなだめ、
トラブルに対処し、
不倫相手を安心させ、
それらが代わる代わる。
やり取りがどんどんヒートアップしていくのと並行して、アイヴァンの焦燥や苛立ちも募っていく。
うるさいほど掛かってくる電話にうんざりした事は誰しも経験ある筈。自分も然り。
いよいよ我慢出来なくなり、「ファック!」と叫び、怒号を上げる。
それでもアイヴァンはロンドンを目指す。
時折アイヴァンは、誰も居ない車内で誰かと対話する。幻影のある人物と自分は違うと言い聞かせながら…。
たった一人の車内という、異色のワン・シチュエーション。ほぼリアルタイム。
電話だけでやり取りする会話劇でもあり、主人公が置かれた状況や緊迫感など構成や展開が巧みで、飽きさせない。
そして、一人芝居。トム・ハーディの熱演が圧巻。
いつものタフなイメージは抑え、平凡な男の様々な感情を見事に表している。
延々続く夜のハイウェイは、まさに出口の見えない状況に陥った主人公の運命そのもの。
家族も仕事も失い、自業自得でもある。
果たしてこれで良かったのか…? 道を間違えたのか…?
そんな時電話から聞こえてきた、ある“声”。
それがこの男のこれからに明となるか暗となるか見た人それぞれの受け止め方次第だが、やっと一つの出口が…。
もっと短くていい映画
映画の内容としては問題ありませんでしたが
いかんせん長い
20分でいいレベルの内容でした。
そうすれば、映画らしい映画として3.5点くらいになったと思います。
2倍速でちょうどいい映画でした。
風景が同じなので、のめりこむまで時間がかかります。
内容としては、すべてがうまくいって行ってた男が一夜にしてすべて終わる話。
ありがちな内容です。
演技も題材も映画にぴったりでしたが、もう少し短ければなあ。
素晴らしいような気もする、不完全燃焼な脚本。
可もあり不可もあり
最後のシーン
トムハの熱演で映画はこんなに面白くなる!
仮にラジオドラマであってもまた見たい(聞きたい)
建設業界人必見の身につまされるサスペンス
建設現場のコンクリート打設担当の現場監督アイヴァンがとある事情から現場を出てロンドンに向かう86分間をきっちり86分で描いたサスペンス。その間画面に登場するのはBMWでハイウェイをひた走るアイヴァンただ一人。あとは彼の妻と息子たち、現場の上司、同僚他と電話で会話するだけというミニマルな設定の中で出張中にしでかしたミスからどんどん追い詰められていく男をトム・ハーディが見事な演技で魅せます。
どんな役柄も自分に引き寄せてしまってどんな映画も自分色に染めてしまうジョニー・デップとは全く対照的に、演じる役柄に完全にシンクロしてしまい、どの映画でも全く違う人物に見えてしまうカメレオン俳優トム・ハーディが世に問うた圧倒的な傑作。これも働くお父さんが身につまされるお話なのでご夫婦での鑑賞はオススメしかねますが、建設業界人必見のサスペンスであることは間違いないです。
夜の高速道路が好きなひとへ
人生もコンクリートもヒビが入れば脆いもの。
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