オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分のレビュー・感想・評価
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情けない痴話がこんなにもエキサイティングに!
ある夜、愛する妻や子供がいる家を出て、車で高速道路を走るひとりの男。土木工事の現場監督で、明日はバカでかい基礎工事が控えていて、今夜は家族と大事な約束もある。それなのに、一体男はどこに向かおうとしてるのか?
マジメそうな庶民が、突然不断の決意をして、家族にも仕事にも背を向けるこの映画。いや、車を走らせながらあちこちに電話をかけて、あらゆるトラブルや綻びを収めよう必死に努力はするのだが、状況は悪化するばかり。全編車の中で繰り広げられる、スリリングなブラックコメディと呼ぶべきだろう。
主演のトム・ハーディ以外は電話の向こうの声だけで誰一人顔が映らないのだが、共演者は『スパイダーマン ホームカミング』のトム・ホランドだったり『女王様のお気に入り』『フリーバッグ』のオリヴィア・コールマンだったりとかなり豪華。そして、ものすごく小さなスケールのお話ながら、とっちらかったことをしでかす一般人の一生懸命から目が離せなくなる。観る人を選ぶ作品だとは思うが、自分のようなダメ人間映画好きには中毒性があるくらいハマる。
2本のワインと孤独な女・・・そのふたつで《人生の岐路に立つ男》
なんともほろ苦い映画でした。
男(アイヴァン=トム・ハーディ)は、家に帰る途中で運転中だった。
明日には国家的プロジェクトの大事な仕事を控えていた。
家では息子たちと妻とでご贔屓チームのサッカーの試合をテレビ観戦
して、ピールとソーセージで大盛り上がりする予定だった。
《一本の電話》
それは早産でアイヴァンの子供が産まれそうだ・・・と告げる
一夜限りの過ちの相手・ベッサンからの電話だった。
ベッサンはアイヴァンが7ヶ月前に3ヶ月間出張したロンドンの仕事の
秘書をしてくれた女性だった。
打ち上げの日に2人は2本のワインを開けて、43歳の美しくもなく孤独な
ベッサンと成り行きで一夜を共にしたのだ。
そして突然の早産の知らせ。
男は瞬時に決断をした。
★帰宅から行き先を変更したこと。
★女の出産に立ち会うためにロンドンの病院に向かうこと。
しなければならないこと。
①仕事の手配・・・彼は翌朝、ヨーロッパ各地から集まる
……………………………226台のコンクリート・ミキサーを待ちセメントを
土台に流し込む工程を成功させる1000万ドルの仕事の責任者なのだ。
この映画の面白い趣向は、男の車の中の【電話での様々な人との会話】で
全てが進むこと。
②次に大事なことは、妻のカトリーヌに、一夜限りの愛のないセックスで、
男の子供が産まれてくることを告白すること。
★男は妻がそれを許すと高を括っていた。
しかし妻の動揺は想像を大きく超えて、
★★二度と帰ってこないで。別れます、子供には会わすけれど。
と言う返答で、
息子のエディは母親の異変を感じつつも、サッカーチームの
弱小ディへンダーの入れた2点のゴールに舞い上がっている。
そして仕事。
大事なプロジェクトに立ち会わないと知った会社の上司により、
♠︎解雇を通告されてしまう。
♠︎一晩にして、男は仕事と家庭(妻と息子たち)を失ってしまうのだ。
車の後部座席には、子供の頃、男を捨てて逃げた父親の亡霊が現れる。
“俺はアンタにはならない、絶対に“
そう言って男は過ちの責任を取るために女の病院へ向かうのだ。
ベッサンの声を演じたのは名女優・オリヴィア・コールマン。
容貌がパッとしない中年の女。43歳は出産ギリギリの年齢。
(なんとも似合いすぎて怖いくらい)
女にとっては子供は願ってもないプレゼントだろう。
産まれた子供は、男にとっては、
一夜の愛の無いセックス、
一夜の過ちの結果の子供・・・
そう言われるとしたら子供も不憫だ。
そして女は懇願する、
“せめて一度だけでも、愛してる“と言って!!“と、
なんとも切ない映画でした。
監督・脚本はスティーヴン・サイト。
名脚本家で、好きな映画、心に残る脚本が多い。
「完全なるチェックメイト」「マリアンヌ」
「蜘蛛の巣を払う女」「堕天使のパスポート」などがある。
経験から学ばない男
原題は『Locke』。17世紀の政治思想家ジョン・ロックと本作を結びつけて論じているの宮台真司だけ、さすがです。今ほど交通ルールが厳しくなかった頃、携帯電話をかけながら2回ほどバイカーを引き殺しそうになったことのある私は、BMWで高速を走りながら電話をかけまくるトム・ハーディーが事故にあわないかと気が気ではなく、まさか本作がジョン・ロックの思想をベースにした映画だとはまったく気づかなかったのです。
なにやら建設中の巨大な建造物を後にする主人公アイヴァン・ロックはどうも現場の責任者らしく、本社から解雇を言い渡されたばかりであることが、電話の内容から伝わってきます。さらに、行きずりの関係をもった女性が妊娠し出産真っ最中、サッカー好きの息子がいる家族の元に帰るか女性のいる病院へ向かうかで、ギリギリの選択をせまられます。どうもアイヴァン自身私生児らしく、いまだに自分と母親を捨てた父親を相当憎んでいるようなのです。
自分がいなくなった現場のことが心配でしょうがないアイヴァンは、パニック気味に電話をかけてくる後輩にまずは落ち着くよう説得し、今までの現場責任者としての“経験”を基にコンクリートの配合から役所の許可の取り方まで細かく指示を与えます。このあたり、人間の知識は、生まれつきではなく、経験を通じて得られるというジョン・ロックの経験主義に則したパートと言えるでしょう。
父親と同じ過ちをおかしたくなかった主人公が、(元の家族を捨てることによって)はからずも父親と同じ過ちをおかしてしまう“経験論の呪い”についての映画であると、宮台先生は論じていらっしゃいましたが本当にそうなのでしょうか。映画ラスト、主人公のアイヴァンが赤ちゃんの産声を電話で聞きながらハイウェイの出口を下り降りるシーンには、なにかしらもっと明るい希望めいた“灯り”が感じられたからです。
途中難産で苦しむ女性の絶叫を聞きながら、家族を捨て一度ベッドを共にしただけの女性の元に向かうアイヴァン。自分を捨てた父親との確執や今ある家族の将来を経験則的に考えれば、けっして賢い選択とはいえません。それでもアイヴァンは安定した家庭ではなくあえて荊の道を選ぶのです。86分間の短いようで長ーいハイウェイの帰路を、赤ん坊が苦しみながら生まれてくる女性の産道にトレースしながら、監督はそこにどんな意味をこめたのでしょうか。
経験論の他にもジョン・ロックは、家父長制的な社会契約説に対し、人民は政府に対する抵抗権や革命権をもつと唱え、1688年英国で起きた名誉革命を正当化したといいます。この映画における主人公の行動は、まさに国家(ウェールズからみたイングランド)や会社役員、そして家族における父親の権力を絶対視する家父長制に、“革命”を起こしたといえるのではないでしょうか。BMWのフロントガラスに反射する色とりどりのイルミネーションは、男の革命成功を祝福する紙吹雪だったのかもしれません。とはいえ、経験から何も学んでいない、といわれればその通りなのですが。
「人間が歴史から唯一学べることは、人間は歴史から何も学ばないということである」 フリードリヒ・ヘーゲル
【私生児と思われる男が、一夜を共にした女性の出産に立ち会うために、家族、仕事を犠牲にしてでも夜中のハイウエイを疾走する姿を描くトム・ハーディファンには堪らない作品。】
■建築現場監督としてキャリアを積み上げてきたアイヴァン・ロック(トム・ハーディ)。仕事を終えて自宅に向けて走りだす。
そこへ且つて一晩だけ共にしたベッサン(声:オリヴィア・コールマン、聞けば分かる。)から1本の電話がかかってきてアイヴァンの気持ちは揺らぐ。
行き先を変更したアイヴァンは、家族にはうそで塗り固めた電話をし、翌日からの大規模工事の指示を部下に出す。
◆感想
・画はほぼ総て、トム・ハーディ演じるアイヴァン・ロックの車中での姿である。
・彼は、一晩だけ共にたベッサンの出産に立ち会うために車を飛ばす。
ー 途中で明示される彼の会社からの解雇。そして、妻カトリーナからの別れの言葉。-
■だが、彼は仕事に対しては適切な指示を部下に出す。そして、彼が屡々口にする父への想い。このセリフから彼が、私生児である事が容易に想像できるのである。
彼が、私生児として苦労して来た背景は一切描かれない。
だが、彼が自身の私生児のために、全てを投げ打ってベッサンの病院へ向かうシーンや、家族、仕事仲間からの電話に的確に対応する姿が印象的な作品である。
<結論:今更ながらトム・ハーディって、良い役者だなあ、と思った作品である。>
特殊な映像、だからこそ描けた人間
高速道路と車内という空間が、こんなに面白いとは!
後戻りはできず、一定の速度で進むしかない一本道。
外界の景色は、夜の闇と等間隔な街灯の光による、抽象的でぼんやりとした存在だけを現しながら流れてゆく。
車の中は自己の領域。他者とのほとんど絶望的な隔たりの中、電話だけが社会とつながる頼りないスポークとなっている。後部座席は闇が亡霊のごとき不安感をたたえ、父のカゲが投影される。
高速道路の場面だけで構成するというのは、奇をてらっていると見られそうだが、こうすることでしか描けない情報が確かにあったのだと思う。高速道路の場面の前後が映らないために、車内の狭さと合間って、より閉塞感、束縛感が肥大化し、彼の苦しみがずしずしと響いてくる。
話し相手の姿が見えないことであぶり出されるのは、不安も焦りも全て自分の社会的立場に対するものだということだ。通話以外、他者と隔たっている中で、社会の中から自己が区切られ、浮かび上がる。社会的な関係性の状況に照らして自己を捉えられるという、自己認識・評価の一つの本質が見いだせる。
それにしても、いつだったろう、私もこんな経験をした気がする。
いくつも重大なタスクが重なって、焦り混乱しそうな自分に鞭打ちながらなんとか対処しようとする深夜だ。出産とか工事の監督みたいな大きいことではなかったはずだが。
そんな中、ミスが起こったり、一定で進む時間のどうにもならなさを嘆いたり、自分の能力の限界に苛立ったり…そんなめまいのするような一時の情景が、記憶の奥から浮き出しそうだった。
実はそういう経験のある人って、少なくないのでは。
地味なのに面白い
運命のハイウェイ
一人の男が夜のハイウェイを車で走る。電話でやり取りしながら。
ただそれだけなのに、男が破滅へと走っていくサスペンスフルな作品として成り立っている。
男の名は、アイヴァン・ロック。
家族あり。
家では子供たちが父親と一緒にスポーツ観戦するのを楽しみに待っているようだが、アイヴァンは仕事を終え、帰宅する…訳ではないようだ。
では、何処に向かっている?
アイヴァンは有能な工事の現場監督。
翌日、大規模な作業が控えている。
その前日にも拘わらず、上司や部下から電話が掛かって来ようとも、ひたすら車を走らす。
彼が向かっているのは…
ロンドン。
以前たった一度だけ関係を持った女性が妊娠し、今病院に居て、まさにこれから出産しそうなのだ。
それに立ち会う為に。
言うまでもなく、不倫。
この夜はアイヴァンにとって人生の別れ道。
電話で妻に全てを打ち明けるが…
妻は大激怒。ヒステリックにもなり、アイヴァンを家から追い出すとまで言う。
さらに、仕事関係の電話が。トラブル発生。電話越しに対応するが、部下は困惑し酒を飲み始め、しびれを切らした上司から解雇通告が…。
さらにさらに、ロンドンの病院から電話。へその緒が胎児の首に絡まり、危険な状態。不安がる不倫相手の声…。
妻をなだめ、
トラブルに対処し、
不倫相手を安心させ、
それらが代わる代わる。
やり取りがどんどんヒートアップしていくのと並行して、アイヴァンの焦燥や苛立ちも募っていく。
うるさいほど掛かってくる電話にうんざりした事は誰しも経験ある筈。自分も然り。
いよいよ我慢出来なくなり、「ファック!」と叫び、怒号を上げる。
それでもアイヴァンはロンドンを目指す。
時折アイヴァンは、誰も居ない車内で誰かと対話する。幻影のある人物と自分は違うと言い聞かせながら…。
たった一人の車内という、異色のワン・シチュエーション。ほぼリアルタイム。
電話だけでやり取りする会話劇でもあり、主人公が置かれた状況や緊迫感など構成や展開が巧みで、飽きさせない。
そして、一人芝居。トム・ハーディの熱演が圧巻。
いつものタフなイメージは抑え、平凡な男の様々な感情を見事に表している。
延々続く夜のハイウェイは、まさに出口の見えない状況に陥った主人公の運命そのもの。
家族も仕事も失い、自業自得でもある。
果たしてこれで良かったのか…? 道を間違えたのか…?
そんな時電話から聞こえてきた、ある“声”。
それがこの男のこれからに明となるか暗となるか見た人それぞれの受け止め方次第だが、やっと一つの出口が…。
もっと短くていい映画
映画の内容としては問題ありませんでしたが
いかんせん長い
20分でいいレベルの内容でした。
そうすれば、映画らしい映画として3.5点くらいになったと思います。
2倍速でちょうどいい映画でした。
風景が同じなので、のめりこむまで時間がかかります。
内容としては、すべてがうまくいって行ってた男が一夜にしてすべて終わる話。
ありがちな内容です。
演技も題材も映画にぴったりでしたが、もう少し短ければなあ。
素晴らしいような気もする、不完全燃焼な脚本。
可もあり不可もあり
最後のシーン
トムハの熱演で映画はこんなに面白くなる!
仮にラジオドラマであってもまた見たい(聞きたい)
建設業界人必見の身につまされるサスペンス
建設現場のコンクリート打設担当の現場監督アイヴァンがとある事情から現場を出てロンドンに向かう86分間をきっちり86分で描いたサスペンス。その間画面に登場するのはBMWでハイウェイをひた走るアイヴァンただ一人。あとは彼の妻と息子たち、現場の上司、同僚他と電話で会話するだけというミニマルな設定の中で出張中にしでかしたミスからどんどん追い詰められていく男をトム・ハーディが見事な演技で魅せます。
どんな役柄も自分に引き寄せてしまってどんな映画も自分色に染めてしまうジョニー・デップとは全く対照的に、演じる役柄に完全にシンクロしてしまい、どの映画でも全く違う人物に見えてしまうカメレオン俳優トム・ハーディが世に問うた圧倒的な傑作。これも働くお父さんが身につまされるお話なのでご夫婦での鑑賞はオススメしかねますが、建設業界人必見のサスペンスであることは間違いないです。
夜の高速道路が好きなひとへ
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