「俺の信念は正しかったのか?」オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 みじんコさんの映画レビュー(感想・評価)
俺の信念は正しかったのか?
深夜の高速道路をひた走る車内で、電話の会話のみで繰り広げられる86分の密室劇。
顔を出して出演している役者はトム・ハーディー1人だけのトム・ハーディーによるトム・ハーディー映画。
映画では主人公の決断を表現するメタファーとして三叉路をモチーフとして使用する事が良くある。
右に進むか、左に進むか、人生にとって大きな決断をすること、それにともない切り捨てなくてはならない物との葛藤、それが作品にドラマを生み出す。
対してこの映画の舞台になるのは深夜の高速道路、途中そこから降りる事はできても、目的地まで分かれ道の無い一本道だ。
そこから象徴される今作の物語は『俺の揺るぎない信念は果たして正しかったのか』という『決断の正しさ』を主人公に問い続ける苦悩のドラマだ。
作品中詳しくは描写されてはいないが、この作品の主人公は物語の始まる1日前までは、良き夫であり良き父親であり社会人としても同僚からの信頼も厚い有能な技術者であった事が伺える。
たった1つ犯した過去の過ちが、彼に重大な責任を負わせる事になろうとは…
しかし彼が「悪賢い大人」であればその事態を周囲の人間を傷付け、欺く事によって脱し、自分の平穏な生活を守る事ができたはずだった。
だが彼にはそれができなかった、できない理由があった、彼には彼が生きて行く上で絶対に守らなくてなならない「誓約」があったのだ。
その「誓約」を守る為に彼は自分の「家庭」も「仕事」も「人としての信頼」も、全てを失う事になる。
辛い、辛い覚悟、揺らぎそうになる信念、それでも彼は自分の「誓い」を守る為に深夜の高速道路をひたすら目的地に向かって走り続ける・・・。
僕にはこの作品の主人公の苦難を「所詮、自分の蒔いた種」と笑い飛ばす事はできなかった。
どうしようにも無い失敗をしてしまった時、お前はその「罪」と正面から向かい合う事ができるのか?
事なかれ主義的に事態を納める為に、人の言葉に甘えたり、誰かを犠牲にしたりせず、お前は全ての罪を一身に背負い地獄に落ちる覚悟はできているのか?
この映画に喉元にナイフを突きつけられたような気がした。
映画のラスト、全てを失った主人公に僅かに提示された希望…
自分の信念に殉じた者に救いはあった…そう僕は思いたい。
世の不条理を一身に背負い「男の苦悩」を体現したトム・ハーディの演技は素晴らしかった!彼のファンなら必見の映画だと思います!