「楽しくて、しかも筋の通った名作。」パディントン 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
楽しくて、しかも筋の通った名作。
MIをネタにしたり、
いろんな趣向が凝らされていて楽しい映画ではあるが、
同時にビシッと一本筋の通った名作。
「ペルーの最も奥深いところ(Darkest Peru)」を40年前に訪ねてきた探検家は、
「何かあったらいつでもロンドンにおいで。歓迎するから」
と言って帰国した。
だから「それ」が起こった時、おばさんのルーシーは甥っ子を、
密航させてまでロンドンへ送った。
「ロンドンでは、まずはグッド・モーニングと言い、
次に天気の話をし、そして帽子をとって挨拶することを忘れずに」
「むかし戦争の時、戦災孤児は『この子をお願いします』という札を首から下げてロンドンの駅にいれば、だれか親切な人が養ってくれた」
という探検家の話を信じて、彼はロンドンへ向かう。
ところがロンドンの西の玄関口パディントン駅に着いてみると、
彼がいくら挨拶しようと、誰も返事はしてくれない。
(それどころか、駅に熊がいることにさえ無関心w)
――という時点でこれは
現代の英国に生きる人たちへの
強力なメッセージであるとしか思えない。
途中で出てくる骨董屋の主グルーバーも、
かつて孤児となってハンガリーから出てきて
大叔母にひきとられたんだけれど
体が移住してから心が移住できるまでにはかなり時間がかかった
という挿話がある。
そして
通過するあちこちの街角で生演奏しているカリビアンの曲。
その歌詞も、いろんな人が集まっていっしょに暮らすロンドンの象徴。
(「プリティ・ジャパニーズ」という歌詞にニンマリ^^)
それから
新しい学校でいじめられないように
空気ばかり読んで恥をかかないようにということばかり考えていた
ブラウン家の長女ジュディの目覚め。
さらには
子どもたちをリスクから守ることばかり考え、
保守的に凝り固まっていたことを自覚して
自らを変えようとする父親ブラウン氏。
最終的には、
異質の存在であるパディントンは、
ブラウン家の家族として、
つまりはロンドンの、英国の一員として
受け入れられる。
全てが
「異なるものが共存することの意味」
を語っている。
移民をめぐる様々な問題で揺れる英国、そして欧州だからこそ、
この願い、主張、思想、誇りには、
重みがある。