「介護する家族の姿に自分を重ねて」アリスのままで ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
介護する家族の姿に自分を重ねて
まるで英語教材かのような明瞭なアクセントでスピーチをする大学教授のアリス。しかし、その彼女がアルツハイマーに犯され、徐々に記憶も発言も虚ろになっていく…。話し方ひとつ取っても発症前後のアリスのギャップをジュリアン・ムーアが見事に演じている。
だが、私がまだ30代であるためか、はたまた男性であるためか、病気と闘うアリスの姿よりも、介護をする彼女の家族、特に夫の姿に自分を重ねて本作を鑑賞した。
アルツハイマーと診断された妻を想う夫。「僕がついている」と力強い言葉でアリスを支えるも、徐々に進行していく妻の病状に次第に疲労と困惑の色が隠しきれなくなる。助けたい、支えたい、けれども、介護のストレスから生じるさりげない言動が妻を傷つけてしまうことがどれほど悲しいものか。「癌なら良かった」というアリスの言葉が介護する側の心に重くのしかかる。
この作品はきれいごとを述べていない。アリスの闘病はもちろん、家族や仕事との関わりも描き、あくまでもアルツハイマーと闘うある一組の家族の姿を描いていることに本作の価値がある。努力しても悪化していく家族の姿を見る事はどれほど辛い事だろうか。仕事と介護の両立が困難になっていく中、夫がある選択をするラストはアリスも望むものであったと願いたい。
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