「I'm not suffering, I'm struggling アルツハイマーのリアルを描いた秀作」アリスのままで アキ爺さんの映画レビュー(感想・評価)
I'm not suffering, I'm struggling アルツハイマーのリアルを描いた秀作
struggle-もがく、あがく、努力する
字幕では「私は苦しんでいるんじゃない。戦っているんです。」という風に訳されていましたが、単純に戦うというより、もっともがきながら戦っているという感じです。
個人的な話になりますが、私の父は認知症です。父は同じ事を間をおかずに何度も聞く、知っていたはずの所でも迷子になる等映画の中のアリスと同じ行動をします。そういった意味ではこの映画は「アルツハイマーあるある」でした。映画の中でのアリスの行動は本当にアルツハイマーの方が取る行動です。身近にそんな人がいない方はビックリされるシーンかもしれないですが、本当にそんな行動を取るのです。正直「なんでそんな行動するの?」っと思ってしまいます。でも、それがリアルなんです。
わかってあげたい、でもわからない。理解できない。わからないんです。こちらも所詮人間ですし腹立たしい事もしばしばありますし、精神的にとても疲れます。本人の良かった時を知っているだけなおさら・・・夫を演じるアレック・ボールドウィンが仕事に逃げていますが、逃げたくなる気持ちはとても良くわかります。誰しも仕事あるんですし、四六時中面倒見てるわけにもいかないですし、相手しててもわけわかんない事話ますし、逃げたくなりますよ、そりゃ。最後に自分の夢を半ば諦めて面倒を見ると決めたクリステン・スチュワート演じる次女は立派な決断です。
アリスがビデオに残しておいた悪化した時の対処法。アレをやられると家族としては間違いなくトラウマになるでしょう。ありえないとは思いますが、もし自分の父があんな事やったらと思うといたたまれないです。ただ、その反面どこか助かるのも現実です。
・・・と自分の置かれている状況と相まって、とても他人事とは思えず涙なしには観る事ができませんでした。
ジュリアン・ムーアの演技はアカデミー賞納得です。自分に向けてのビデオレターを見るシーン、良かった頃との対比がとても印象的でした。悪化してどこを見てるかわからずボーっとしているシーン、アルツハイマーの方は実際そうなります。
今回初めて知った遺伝的(家族型)アルツハイマー、思い出してみれば亡くなった祖母もそうでした。父もそうです。もしかしたら自分も将来・・・と考えると個人的にはこの映画はホラーになります。
アリスの演説にあった「私は苦しんでいるんじゃない。戦っているんです。」という言葉、もしかしたら私の父も戦っているのかもしれません。こぼれ落ちてていく記憶と。自分達からはわからなくても。きっとこれからも父に対して腹を立てる事はあるでしょうし、嫌になる事もあるでしょう。それでも戦っている父と向かい合っていこうという気持ちになれた作品でした。長文にて失礼しました。