「心にかかる闇」海にかかる霧 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
心にかかる闇
不漁にあえぐ漁船が中国からの密航者を運ぶ闇仕事を引き受けるが…。
2001年に韓国で実際に起きた“テチャン号事件”を元にした舞台劇を映画化。
シリアスなハード・サスペンスと言ったら韓国!
それに恥じない衝撃作!
監督は本作でデビューの「殺人の追憶」の脚本家シム・ソンボ。
プロデュースにポン・ジュノ。
つまらない訳がない。
前半と後半の対比が印象的。
これから何か起こりそうな雰囲気を暗示しつつ、前半は穏やか。
金や貧困を抱えつつも、家族のように仲の良いクルー。
闇仕事を引き受け、出港。最悪の航海になるとは誰も思わずに…。
手筈通り中国人密航者を乗せ、順調に見えたが…、思わぬ事故が発生。
隠蔽の為にある処理を行う。
いつの間にか船は視界ゼロの霧に覆われた。
それはまるで、次第に正気を失っていくクルーの心の闇のように…。
極限状態の人間模様。
船の上という逃げ場ナシの限定空間。
追い詰められた者たちはあっという間に狂気に囚われる。
あの前半の仲の良かった関係はもう何処にもない。
一転した惨劇が哀しく恐ろしい。
“処理”のシーンも霧に覆われていたからまだいいものの、もし霧に覆われていなかったら地獄絵図。
独裁、その従順者、性欲剥き出し…浮き彫りになる己の本質。
大統領で父親で船長のキム・ユンソクがさすがの存在感。
新人船員にアイドルグループ“JYJ”とやらのパク・ユチョン。若い女密航者を匿い、守ろうとする。
アイドルへの計らいのような設定だが、狂気の中、唯一正気を保つ二人に救われる。
何故、こうなったのか。
匿っていた女が見つかったから?
あんな“処理”をやらせたから?
そもそも闇仕事を引き受けたから?
それぞれに理由はある。
ただ惚れた女を守りたいから。
あれは事故だった。
引き受けたのは生活やクルーの為。
何処かで歯車が狂い、芋づる式に堕ちていく。