「BS日テレで放送すればよかったのに。」杉原千畝 スギハラチウネ TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
BS日テレで放送すればよかったのに。
いち外交官として、数多くのユダヤ人の命を救った杉原千畝の伝記映画。
史実を扱っているとはいえ、映画である以上、フィクションが加わるのはやむを得ないこと。ただ、そのぶん、観る側に歴史の一場面に立ち会っているように感じさせるリアリティも欠かせない筈。
この映画、ヨーロッパでの会話が英語なのには、正直白けた。しかも外交官同士だけならまだしも、地元の子供まで。
ハリウッド映画の場合、会話が英語なのはドイツが舞台のナチスを扱う作品としては、よくある手法。監督が日系アメリカ人だからこういう表現になったのかも知れないが、邦画とはいえ、国際的に話題になる素材を扱っていながら、どこを向いてつくったのか考えてしまう。
作中に登場するユダヤ系商社家族の描かれ方も気になる部分。
主人公に出国を促されながら、資産の整理にとまどり、ナチスの犠牲になるユダヤ人資本家は、ヒトラーが喧伝した欲深いユダヤ民族の虚像そのまま。
ほかにも、ソ連兵やドイツ兵の描写がステレオタイプなど、指摘したい点は幾つもあるが、一番の問題は、杉原が日本政府や外務省から冷遇された戦後の時代を詳しく描かなかったこと。
国外からの指摘を受けても、今世紀に至るまで杉原の功績が国内で黙殺され続けた原因は、本国からの訓令に違反したことにある。
しかし、政府の方針を無視して大陸で歯止めの利かない暴走を続けた関東軍や、満州国維持の口実やユダヤ財閥の支援目当てで考案された「河豚計画」とは違い、訓令無視を敢行した杉原の目的が人命救助であったことは明らか。その彼の不遇を扱わずに「戦時中の日本には、こんな立派な人間もいました」でまとめてしまっては、現代のプロパガンダ映画と謗られてもやむを得ないと思う。
脚本をはじめ、本作が緻密さに欠けると感じる理由は、戦後70年の節目に公開を間に合わせるための拙速な製作にあるのだろうし、その背景に映画を「百年残る知識遺産」として扱う認識の欠如も感じてしまう。
題材が題材なだけに、どんな内容に作っても左右どちらか(もしくは双方)からの批判は想定内。せめて作品としての完成度にこだわって欲しかった。
この作品の感想を簡潔にまとめると、
「杉原千畝は評価できるが、映画は評価できない」
と言うほかない。
劇場公開ではなく、NHKBSのプレミアムシアターで初めて拝見したが、いきなり日本テレビのロゴが出てきたのにはびっくり。
だったら、日テレ系列で放送すればと思うが、最近の地上波は『金曜アニメ劇場』と化しているし、せめてBS日テレでなんとかならなかった?!