劇場公開日 2015年10月10日

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「たかが野良猫、されど野良猫」先生と迷い猫 全竜(3代目)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0たかが野良猫、されど野良猫

2016年10月16日
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鑑賞方法:映画館

笑える

知的

『猫侍』『ねこタクシー』etc. 猫&冴えないオッサンのコンビ映画が妙に目立つが、世知辛い今の世には適したユルさなのだろう。

猫の愛嬌が豊かなほど、相棒は不器用でしがない独り者がお似合いなのがセオリーで、今回のイッセー尾形は、その典型的人物である。

校長先生を定年退職した老人は妻に先立たれて今や独り暮らし。

頑固で偏屈な性格が災いし、町の近所衆からは煙たがれる始末で、専ら趣味のロシア文学の翻訳と写真に没頭する日々。

独りぼっちの古民家を毎日訪ねてくるのは、夫人が生前可愛がっていた野良猫ぐらい。

しかし、猫嫌いの先生は、猫を追っ払ってしまう。

先生が猫を邪険に扱うワケは、来る度に奥さんが死んだ事実を思いしるから。。。

思い出したくないけど忘れたくもない記憶を繋ぎ止めてくれる重要な役割を果たしているからこそ、猫の存在が歯痒く、背けてしまうのである。

だが、駄菓子屋の北乃きいや、美容院の岸本加世子etc. 他にも可愛がっていた人達と巡り逢い、姿を消した猫を探そうと集まったのを機に、《妻の死》と云う敬遠してきた現実と向き合うようになっていく。

1匹の野良猫を通じて、孤立化した老人が近所付き合いを始め、交流を深めていく構図は、年々、深刻化する老人を巡る地域コミュニティ問題に対する糸口を説いている気がして、変化する先生の背中が愛しく見えた。

終始、呑気な世界観だが、感慨深い人間味が溢れているから眠くならない。

《たかが野良猫、されど野良猫》

そんな言葉がお似合いの一本である。

では、最後に短歌を一首

『坂の風 のらりくらりと 追いかけて ポツリ縁側 焦がす相棒』
by全竜

全竜(3代目)