「世界を考える糸口として」ジミー、野を駆ける伝説 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
世界を考える糸口として
麦の穂を揺らす風に感銘を受けまして、ケンローチという監督を覚えたのが2014年の夏です。同じ監督が麦の穂…の時代から10年程のちのアイルランドの活動家を映画にした、ということで観てきました。
1930年ごろのアイルランドが舞台です。
アイルランドの歴史と文化を多少なりとも知らないとついていけないかもしれません。カトリックについても知ってたほうがわかりやすいかもです。
盛り上がりとかそういうのはほぼ無いです。悲惨で泣ける、というのとも違います。
主人公ジミーのスピーチが、山場といえばそうかもしれませんが、撮り方も内容も地味です。(ダジャレのつもりはありません!)
でも誠実なスピーチだと思いました。
欲を捨て、人生の喜びのために誠実に働こう、と言っていました。これまた感じ入る言葉でした。
教会とファシスト党(だったかな?アイルランドにファシスト党があったなんて初めて知りましたが)は、ジミーら労働者たちの左翼化を恐れて卑怯な妨害をし、挙句ジミーを再び国外追放してしまうラストです。
アイルランドの歴史や当時の人々の思いや生活に触れられたというだけでも価値があると思います。音楽と踊りもたくさん出てきます。結ばれなかった恋もあわ〜く出てきます。不倫しなかったので二人はえらいと思いました。
本編に限らず歴史映画の価値は、見た者が、自分が置かれている現実社会の問題をどう捉え、何をすべきなのかを考える、一助になることだと思います。
現実をみればよいじゃないかという向きもありましょう。しかし、昨日や今日の出来事を真正面から受け止め、自分のすべきことは?なんて自問していたら、もうふつうに仕事してご飯食べて、という生活はできません。ショックが強すぎます。
距離が近すぎて恐れが勝ってしまいます。そこから怒りや偏見がくっついてしまい、とても客観的に見られないのです。
かといって、わたしも腐っても社会の一員なわけですから、この世の事象に対して全く無視も大人気ないと思ったりもしているのです。
だから、20世紀初頭という歴史的距離と、日本とアイルランドという地理的距離があって、どうにか一定の客観性をもてるかなぁ、と思い、少し昔の遠い国を思いながら、今の世界について考えたりしています。ほんの少しだけ。