劇場公開日 2017年3月10日

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「どんな困難にも明るく突き進む主人公とテーマ曲が爽快。そう海!」モアナと伝説の海 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0どんな困難にも明るく突き進む主人公とテーマ曲が爽快。そう海!

2017年3月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 「白雪姫」から「アナと雪の女王」までディズニー・アニメーションのお決まりはお姫様が白馬の王子さまに出会うというのが、暗黙のお約束でした。ところがどうでしょう、本作では、そんな王子様との出会いを吹っ飛ばしたのです。主人公の南の島に暮らす少女モアナは村長の娘。やがて父の跡を継ぐ立場だから、お姫様といえなくもないでしょう。けれども、夢に描いた大海原にこぎ出し、冒険に出かける勇者として描かれることが大きな違いです。
 これまでのあらゆる冒険活劇で、主人公の勇者がまだ幼い少女だった話なんて、聞いたことがありません。そこにディズニー・アニメーションが抱え込んでいたお姫様の物語という伝統と制約の呪縛から解き放たれた新しいヒロインを産み出したという本作の意義を感じました。

 まだ『アナ雪』の淡いエメラルドグリーンから沖合の藍色へ。南国の海が舞台となり、作品のルックが明るく開放感に満ちたものに変わったというのも好感がもてました。
 南の島が舞台だけ極彩色のカラフルな色彩は、これまでのディズニー・アニメーションと比べて抜きんでて美しく、主人公の冒険に彩りを添えてくれました。彩りばかりでなくデジタル技術を駆使して描かれる人肌や背景の質感もリアルそのもの。従来の作品よりも技術の革新を実感させてくれる映像となっています。なかでも優しいエメラルド色でモアナを迎え入れる海の描写が素晴らしかったです。本作では、海とは命と意思を持ち、モアナの冒険を支える存在として描かれます。時にユーモラスな動きまで見せる擬人化された海の描写は、いのちを育む存在として深い理解と尊敬に貫かれていました。
 さらに星空の下で深い藍色に染まる夜の海の描写も素敵です。幻想的な世界にどっぷりとはまることでしょう。

 物語は、ある日、モアナが選択を迫られることから始まります。かつて伝説の英雄マウイが命の女神から盗んだ「心」を返さなければ、世界が滅びることを知ったのです。実際に島の日常でも魚が捕れなくなり、椰子の実が朽ち果ててしまうなど、深刻な影響をもたらしていました。
 しかしモアナの暮らす島は大海へ出ることを1千年も代々禁じていました。かつては大海を渡って、今の島に辿りついた島民たちの祖先でしたが、今ではすっかり古代の航法術を忘れてしまって、島を囲む珊瑚礁の外側に船を出すことはとても危険なことだったのです。それでも村長である父親の制止を振り切ってもモアナは平和を取り戻すために、ダブルカヌーで海へ旅立つのでした。案の定、モアナは何度も海に落とされます。帆に風をはらませすぎると、カヌーそのものまで転倒する始末。コツは自然の変化を掴むことでした。それを教えてくれたのが、女神から「心」を盗んだマウイだったのです。マウイはニュージーランドなどを釣り上げたとされる半神半人で、実にわがまま。気性の強いモアナと全くそりは合いませんでした。でも命の女神を探すためには、どうしてもマウイの協力が必要だったのです。
 そんな時、彼の全身を覆うタトゥーがまるで生きているかのように、マウイの本音を物語り始めます。マウイのタトゥーが仲介することで、価値観の違う2人はしぶしぶ和解し合い、マウイはモアイの古代航海術の師匠となって、「心」を戻す冒険に乗り出すのでした。まぁ、マウイは神様の仲間にしては、おっちょこちょいで、笑いどころに事欠かない憎めないキャラ。二人のキャラの違いがぶつかるところが可笑しくて、笑えました。

 それにしてもまだ10代の少女であるモアナにとって、なんて途方もなく重い使命なのでしょう。師匠となってもマウイは相変わらず自分勝手だし、大自然の前ではちっぽけで心許ない存在。そして天候は急に荒れ、逆巻く海に囲まれます。またあるときには、かわいいけれど(^^ゞ凶暴な海賊の襲撃を受けます。一筋縄ではいかない事態が続きます。でも、モアナが勇気と愛嬌で乗り越える姿は爽快そのもの。そこに希望を歌い上げるテーマ曲が被っていくとき、とても気分が高揚してポジティブな心境になれます。
 どんな困難にも立ち向かっていくモアナの勇気を振り絞るシーンは、本作の最大の見どころです。きっと『アナ雪』同様に、多くの人に愛される作品と楽曲となることでしょう。

 ところで、モアナたちの祖先の来歴が明かされる時、悠久の歴史ロマンが明かになります。作品には出ていませんがかつてムー大陸が海底に没したとき、ハワイなど残った大陸の一部で生き残った人々は、大陸の痕跡を求め、新たなる大地を探して、世界の海を駆け巡ったと伝えられています。本作で語られる古代航海術とは、その名残なんでしょう。1970年代にオセアニアの各地で航法術を復活させる動きが起きたそうですが、本作の監督もタヒチからハワイまで伝統的な船で航海した若い女性の話を参考にしたそうです。

 単なる創作ではなく、作品の背景となるオセアニアの民俗学的な衣装や風俗は、精巧に描かれていて、目で海洋文化を楽しめる作品になっています。

流山の小地蔵