「余裕のアナ雪超え。」モアナと伝説の海 TOYさんの映画レビュー(感想・評価)
余裕のアナ雪超え。
結論から言うと非常に面白い映画でした。
大前提として、
曲、ステージング、歌い手に文句がないので″ミュージカル″として成り立っているという事を申し上げておきます。
その上で″自分″系の作品の中でかなり上質な仕上がりになっているのではと感じています。
演出上の細かい描写を上手くフックにして(釣り針だけに)カタルシスを得ていて、
例えばおばあちゃんの「変な人間も村に一人くらいは居ても良い」というセリフ
老い先長くないと悟っているおばあちゃんが、モアナへのバトンタッチを匂わせるセリフです。
実際、モアナが旅立ちを決める(村にとって異質、変な存在が2人目になってしまった)と同時に息を引き取りモアナの背中を押す
感動を得るキッカケとなる上手い構成でした。
さらにはマウイのタトゥー。
あのタトゥーはどう考えても、マウイ以外には動いて見えていません。
マウイは自信喪失した1000年の間、自分の心と向き合い続けて、人格が分離してしまったようになってしまっているのでしょう。
映画キャスト・アウェイにおけるバレーボールのウィルソンのイメージでしょうか。
あの存在をもっと具体的にしたような物に見えます。
この2人(1人)のやりとりが秀逸で、マウイのやりとりだけで10回は涙を流しました。
ミニミニマウイと自身は呼んでいましたが、あのタトゥーはマウイの本心を投影した存在に他なりません。
モアナを海に落としながら実は心配した顔のマウイ。
モアナがまだ穴に落ちてきていなくても、モアナを信じて先に点数を付けるマウイ。
モアナの言葉を受けて、タトゥー(自分自身)に大好きだと告げるマウイ。
マウイは本当にいい男です。
ディズニーが自分の行いを悔いて、偏見で塗れた価値観で作品を作ることをやめて久しいですが。
今回は、その一つとして人の魅力を見た目の美醜に委ねることをやめています。
実際にマウイは過去のディズニープリンスに反したずんぐりむっくりなルックでありながら、その格好良さを否定しようがありませんし
モアナの鼻は丸く、眉は濃く、脚は太くて短いですが、愛嬌たっぷりで魅力的に描くことに大成功しています。
映像技術がコンセプトに追いついたという側面もあるのでしょう。
冒頭から目立つように登場していた豚がミスリードでニワトリが旅のお供だったのも、美醜に価値観を持っていかない配慮と感じます。
ピンチに逃げ出したが可愛らしく描かれていた豚に対して、奇妙に描かれつつもピンチを救ったニワトリ。
モアナにとって必要だったのはどちらだったのか、
価値観は千差万別ですから、この答えを提示しなかった事にも好感が持てます。
他にも、
見た目を飾って認められたいカニと、自分の気持ちや行いによって認められたいマウイの対立構造は感慨深かったですし、
モアナのピンチの切り抜け方は(島での生活を応用した海賊の倒し方、一度マウイが行った旋回方法を模倣した戦闘)モアナがここにきたという必然性を感じて泣いてしまいました。
書いていくとキリが無いですが全体に示唆的で、受け取り方を変える度見え方の変わる映画という印象。
そして一つ一つで上手くカタルシスを提供しているなという印象でした。
観て損なしの傑作です。