「"歌よし"、"画よし"、"キャラクターよし"で優等生であるが。」モアナと伝説の海 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"歌よし"、"画よし"、"キャラクターよし"で優等生であるが。
ロン・クレメンツとジョン・マスカー監督といえば、「リトル・マーメイド」(1989)や「アラジン」(1992)だが、その後は小粒で、前出の2作はすでに四半世紀も経っている。
2人の作品は"人魚姫"や"アラジンと魔法のランプ"と同様、一貫して、神話・伝説や定番物語をネタにしたリメイクである。「プリンセスと魔法のキス」(2010)は、グリム童話の"かえるの王子さま"だし、「トレジャー・プラネット」(2003)は小説"宝島"といった具合…。
では、今回は何のリメイクかというと、ポリネシア(Polynesia)地域を舞台にした伝説の翻案である。"ハワイキ"と呼ばれるポリネシアの故郷(タヒチかハワイのあたり)から、アオテアロア(ニュージーランド)まで航海して移住してきたというポリネシア民族(マオリ族)の伝承を元にして、伝説の英雄マウイの神話を組み合わせたオリジナルストーリーになっている。
入れ墨やレイなどの装飾文化、民族舞踊であるハワイの"フラ"や、マオリの"ハカ"(ラグビーのオールブラックスの踊り)など、ポリネシアンカルチャー満載の作品になっている。”ポリネシアン風”のごちゃ混ぜのような気もするが、フィクションだから仕方ない。
冷めたオトナのウラ読みとしては、オアフ島にある滞在型リゾート施設、"アウラニ・ディズニー・リゾート&スパ"のプロモーション映画に見えてならない…日本人も大好きなハワイ熱に火が付くことうけあい。でも、ディズニーが演ると、商売のイヤらしさが見えない。
ディズニー/ピクサーアニメファンなら頭をよぎると思うが、本作は「インサイドヘッド」(2015)の同時上映短編だった「南の島のラブソング」に似た着想の元があるように感じる。もうディズニーとピクサー作品は表裏一体で、「ファインディング・ドリー」(2016)の同時上映短編「ひな鳥の冒険」で見せていた、海、水しぶきや浜辺の描写テクニックをさらに進化させている。擬人化された"海"がすごいのは周知の事実。アカデミー最優秀短編アニメも受賞した「ひな鳥の冒険」は3Dだったので、モアナが2Dなのはすごく残念である。
もちろん出てくるキャラクターはいちいち可愛い。今回の傑作はオンドリの"ヘイヘイ"だろう。またディズニーアニメのオマージュやキャラクターのカメオ出演もたくさんある。分かりやすいのでは、半神半人のマウイが変身する動物に、"アナ雪"のトナカイ"スヴェン"も出てくる。ココナッツの海賊の中に"ベイマックス"もいる。
さて、ミュージカルとしてはなんといっても主題歌の「どこまでも~how far i'll go」である。今回は字幕版で観たので、オリジナルキャストのアウリー・クラバーリョによる「how far i'll go」が頭のなかをグルグルまわる。
そして話題は、日本語吹替え版のモアナ役、屋比久知奈(やびく ともな)と、エンディング曲の加藤ミリヤである。"アナ雪"における、松たか子とMay J.と同パターン。またミュージカル俳優としても活躍する歌舞伎役者、尾上松也がマウイ役で登場する。「ユアウェルカム〜You're Welcome(俺のおかげさ)」もすぐに耳なじむ旋律だ。
作品はどうかというと、"歌よし"、"画よし"、"キャラクターよし"でミュージカルとしては優等生的ではあるが、ディズニーアベレージとしてはもっと上を要求してしまう…。"愛"の要素が薄いので、冒険の動機が弱い。いわゆるラブストーリーではなくても、島民を守るためのリーダーとしての"愛"は描けたような気がする。贅沢な要望で申し訳ない。
本来、ドルビーATMOS仕様だが、ATMOSスクリーンは「ラ・ラ・ランド」に占拠されているので、モアナが大ヒットしてロングランにならない限り、ATMOS上映はないかも。
"アナ雪"と同様、エンドロールのあとにオマケ映像がある。アナ雪のときは雪の怪物"マシュマロウ(Marshmmllow)"がティアラを戴冠するシーンだったが、今回はやはり主人公モアナと闘った巨大カニの"タマトア(Tamatoa)"が出てくるので、席を立たないように。
(2017/3/10 /ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:中沢志乃)