劇場公開日 2016年4月23日

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「ジュディとニック、警察官と詐欺師によるバディモノの傑作」ズートピア 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 ジュディとニック、警察官と詐欺師によるバディモノの傑作

2025年12月8日
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鑑賞方法:TV地上波

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《吹き替え版》を鑑賞。
【イントロダクション】
様々な動物達が暮らす理想郷“ズートピア”で新米警察官として勤務する事になったウサギのジュディ・ホップスと、彼女とバディを組む事になるキツネの詐欺師ニック・ワイルドの活躍を描く。
監督・原案は、『塔の上のラプンツェル』(2010)のバイロン・ハワードと『シュガー・ラッシュ』(2013)のリッチ・ムーア。脚本・原案にジャレド・ブッシュ。その他脚本に『バッドトリップ!消えたNO.1セールスマンと史上最悪の代理出張』(2011)のフィル・ジョンストン。

【ストーリー】
かつて、肉食動物はその本能に従って草食動物を狩る立場にあった。しかし、進化を経て理性を獲得していった動物達は、やがて肉食動物と草食動物が共に暮らす文明社会「ズートピア」を築き上げた。

ウサギのジュディ・ホップス(声:ジニファー・グッドウィン、吹き替え:上戸彩)は、幼い頃からの夢である警察官になる為、警察学校での厳しい訓練生活を乗り越えて、晴れてズートピアの新米警察官として採用された。ジュディの身を案じる過保護な両親、スチュー&ボニー(声:ネイト・トレンス、ボニー・ハント)の心配も他所に、夢いっぱいのジュディはズートピア行きの列車に乗り込んだ。

ズートピアで夢の新生活が始まるかに思われたジュディだったが、アパートは壁が薄く部屋はボロボロ。それでも新生活に心躍らせるジュディだったが、念願のズートピア警察署(ZPD)赴任初日に配属されたのは駐車違反の取締係。本来、警察官の仕事はサイやカバ等、大型でタフな動物が務めるものであり、小柄なジュディはアフリカ水牛のボゴ署長(声:イドリス・エルバ、吹き替え:三宅健太)から安全な勤務を命じられる。巷では動物達の謎の連続失踪事件が発生しており、先輩達が皆そちらの捜査に向かう中、ジュディは交通係のオレンジのベストを着て駐車違反車の取り締まりに向かう。

それでもめげずに駐車違反車を取り締まり、驚異的な成果を上げるジュディだったが、ふとゾウ専門のアイスキャンディー店に入って行くキツネの姿を目撃する。幼い子供を連れたキツネは、ゾウに憧れる息子の誕生日に、ゾウの作る大きなアイスキャンディーを食べさせてあげたいのだと言う。しかし、店主はキツネにアイスを売ろうとはせず、キツネを店から追い出そうとする。見かねたジュディは、店員が鼻用のカバーを着けずにアイスを作っている事を指摘し、キツネの親子にアイスキャンディーを奢る。親子に感謝されたジュディは、再び駐車違反の取り締まり業務に励む。ところが、先程のキツネの親子が、アイスキャンディーを溶かして瓶詰めにし、ワゴン車に積み込む姿を目撃する。しかも、車を運転するのは、何と子供だと思っていたキツネの方。怪しいと思ったジュディは、彼らを追跡する。

偽親子は、手に入れたアイスキャンディーの液を再び小型動物サイズのアイスキャンディーに成型し直して大量生産し、定時上がりのネズミの銀行マン達に転売して儲けを出す詐欺集団だったのだ。赤キツネのニック・ワイルド(声:ジェイソン・ベイトマン、吹き替え:森川智之)は、フィニックという小型のキツネと共に、同様の転売手法で1日200ドルもの儲けを上げていた。堪らずニックの詐欺行為を指摘するジュディだったが、ニックは持ち前の口八丁手八丁でジュディを躱して去って行く。
都会の生活の理想と現実。理想とは程遠い初日を過ごしたジュディは、心配する両親からのビデオ通話で、更に自信をなくす。

翌日、車の持ち主達から散々文句を言われてウンザリしつつ、駐車違反を取り締まっていたジュディの目の前で、花屋の強盗事件が発生。犯人を追跡し、ネズミ達の暮らす小型動物エリアでネズミの女性・フルーフルーを助けて犯人を逮捕したジュディ。しかし、盗まれたのは花の球根であり、犯人逮捕の為に危険な追跡行為をしたジュディをボゴ署長は叱責。彼女にクビを言い渡そうとする。しかし、署長を訪ねてきた行方不明事件の失踪者の家族・オッタートン夫人に捜査協力を打診したジュディは、夫人が連れてきた羊のベルウェザー副市長(声:ジェニー・スレイト、吹き替え:竹内順子)の後押しもあり、「48時間」という時間制限付きで捜査を許可される。

千載一遇のチャンスを手に入れたジュディは、渡された僅かな情報のみの捜査資料から、アイスキャンディーを頬張るエミット・オッタートンの写真を見つけ、側に写っていたニックが手掛かりを握っているのではないかと考え、彼に捜査協力を依頼する。持ち前の話術で協力を拒もうとしたニックだったが、ジュディの持つ音声レコーダー付きのニンジン型ボールペンに転売利益情報を録音されてしまい、捜査協力せざるを得なくなる。
こうして、警察官のウサギと詐欺師のキツネという異色のコンビによる捜査が始まった。

【感想】
公開当時、Twitter(現X)での評判の良さから劇場に足を運び、その完成度の高さに大満足した記憶がある。今回、最新作公開前の予習として再鑑賞。

改めて鑑賞してみると、動物を擬人化して我々人間社会の抱える「差別」と「偏見」を巧みに浮き彫りにし、説教臭くならずに「自分とは違う他者を認める」事の重要性を説いている。
事件の黒幕が、人畜無害に思える小柄な羊のベルウェザーである点や、スピード違反の暴走車の運転手がナマケモノのフラッシュであるというラストのオチまで含めて、我々が普段、如何に相手の見た目や特性だけで判断しているかを思い知らされるのだ。

しかし、アメリカの運転免許センター(DMV)の職員の仕事の遅さをナマケモノに喩えて風刺するというシーンは、偏見ではないのだろうか?
それ自体は確かに笑えるし、捜査時間の猶予からせっかちになるジュディの可愛らしさも描かれていて良いのだが。
また、ジュディが故郷のバニーバロウを出発する際、街の人口数を示すカウンターが急速に増加していくという、ウサギの繁殖力の高さを描いたシーンも、人口増加の一途を辿る何処かの国を揶揄しているかのように映ったのは気にし過ぎであろうか?
物語として「諦めないこと」や「差別や偏見で判断しないこと」という大切なメッセージを提示つつも、細部に目を向けると以外と迂闊なやり取りも見て取れるチグハグさは気になる。

随所に盛り込まれた映画ネタも面白く、ジュディが「48時間」という捜査時間の制限を言い渡される展開と、警察官と詐欺師という異色のコンビは、ウォルター・ヒル監督、ニック・ノルティ、エディ・マーフィ主演の『48時間』(1982)を彷彿とさせる。
ニックとジュディが捜査する上で関わる事になる、ツンドラ・タウンの暗黒街のボス、Mr.ビッグ(声:モーリス・ラマーシュ、吹き替え:山路和弘)は、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972)のドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)であり、思わずニヤリとさせられる。ただし、「大物」を示すその名前の持ち主が、小さなネズミという皮肉と笑いは思う所あり。

ストーリー展開のテンポの良さが素晴らしく、ジュディの幼少期から警察学校での訓練期間、晴れて警察官として採用されてからのズートピアの旅立ちに至るまで、ジュディへの感情移入を促しつつ、舞台をメインのズートピアへ移していく手腕が見事。
ニックとフィニックの転売手段の面白さ、ジュディの説得にも動じず、口八丁で煙に巻くニックの詐欺師としての腕の確かさも、その後ジュディにしてやられる展開含めて面白い。ところで、ジュディの協力が無かったこれまでは、彼らはどうやって転売商品を仕入れていたのだろうか。

序盤から活躍している小道具や、何気なく登場したキャラクターが、事件解決のヒントになる伏線と回収の鮮やかさも素晴らしく、ファミリー向け・子供向けアニメーションながら刑事ドラマとしても非常に見応えがある。

アクションシーンの迫力も良く、特に後半の列車アクションは見応えがある。博物館で明かされるベルウェザーの凶悪な企みに至るまで、最後まで真相に工夫が為されている点も良い。

【個性豊かなキャラクター達】
本作最大の魅力は、やはりニックとジュディの異色のバディによる掛け合いの面白さだろう。本作に対する疑問点も、このコンビの魅力が相殺して余りあるほどである。

ウサギのジュディは、正義感が強く、「世界をより良くしたい」と願う優等生キャラ。小柄なウサギというハンディキャップを物ともせず、持ち前のポジティブシンキングで次々と立ち向かっていく。そんな彼女が、作中度々「偏見」に晒されるからこそ、観客は彼女を応援したくなる。相手から情報を引き出して録音するという、ニック顔負けの詐欺師ぶりを発揮して「詐欺師って呼んで」と口にする狡猾さの魅力もグッド。

キツネのニックは、少年時代に「偏見」によるイジメを受けたトラウマから、「生まれに対する偏見からは逃れられない」と諦め、皮肉屋で口八丁手八丁の詐欺師として生きている。しかし、その根底には誰よりも他者を理解し、信頼したいという願いが潜んでおり、根っこは心優しい善人である。だからこそ、ジュディが両親から強引に持たされたキツネ除けのスプレーに最初から気付きつつ、嫌々ながらも彼女の捜査に協力して信頼を深めていく。

そんな互いに心に傷を負う者同士だからこそ、事件を通じて互いの「偏見」や「差別」意識を乗り越えて、バディになっていく姿に魅了される。

暗黒街のボス、Mr.ビッグも魅力的で、巨大で屈強なホッキョクグマを従える姿が印象的。ハリネズミのお尻の毛をミンクの毛と偽ったニックを恨みつつ、ジュディが娘のフルーフルーの命の恩人である(それ自体はマッチポンプ的ではおるが)事から、彼女の捜査に協力する姿も良い。

黒幕であるベルウェザーの、悪役ながら憎めない魅力も外せない。表向きは、ライオンであるライオンハート市長(声:J・K・シモンズ、吹き替え:玄田哲章)の雑用係として、キャパオーバーな量の市長の業務を背負わされている。副市長の立場は借り物同然で、だからこそ彼女は傲慢な肉食動物を悪者に仕立て上げ、草食動物が支配権を握るズートピアを計画する。個人的に、ライオンハートのパワハラ上司ぶりから、彼を貶めようとするまでは共感出来る。しかし、やはり怒りの矛先を「肉食動物」という種全体に向けてしまう恐ろしさは、悪役としての彼女の邪悪さなのだろう。
真相を暴かれ、博物館で本性を露わにして全てを語る姿も印象的。

面白いのは、ニュースキャスターのマイケル・狸山だ。日本語吹き替え限定のキャラクターとして、オリジナルではヘラジカなのに対して、オーストラリア&ニュージーランドではコアラ、ブラジルはジャガー、中国ではパンダと、国によって“ニュースの顔”が違うという試みは面白い。

【総評】
人間社会を動物達に喩え、「差別」や「偏見」という問題を浮き彫りにして描く本作は、そのメッセージ性以上に、ニックとジュディの刑事バディモノとしての魅力が炸裂した傑作となっている。

吹き替え版キャストの演技も良く、特にジュディ役の上戸彩とニック役の森川智之の演技は、ジュディとニックさながらのコンビネーションを発揮している。

その完成度の高さ、世界興収の高さにも拘らず、続編の製作・公開(Disney+でのスピンオフ配信はあり)まで約9年待つ事になってしまったが、待望の続編でこの魅力的なコンビがどんな活躍を示すのか楽しみである。

緋里阿 純