「楽園なんてところはない。」ズートピア ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
楽園なんてところはない。
まずは、まずはもう兎に角、純粋に楽しめる!映画ですね。そこは勿論、言うまでもなくて当たり前で、天下のディズニーですから。エンターテインメントの最先端を走っているディズニーさんですから。もう面白いのは約束されていて。
野生を手放した動物が二足歩行で歩き、会話をし、社会生活を営む、という設定はシルバニアファミリーとかメイプルタウンとか、鳥獣戯画の発展形で、まあそれ自体は別段に真新しくなくて。しかし動物達の共存世界を作り、そこでじゃあ何を描くのか?て部分でね、刑事のバディモノを持ってくるってのが最高にイカす訳なのですよ。主役は新人警察官の兎、相棒には世慣れした詐欺師の狐。て、もう、その発想が飛び抜けてるでしょ。
脚本も凄く練られてて。サスペンス映画なんですよ、これ。まさかのサスペンスです!一見愉快そうな動物のノリで敢えてのサスペンス!冒険もしちゃうし、アクションもやっちゃう!こんなアニメ映画観たことない!かも!?て、くらいの興奮。大満足でしょ、そりゃあ。
で。
で、ただ今回は、エンタメレベルを大幅にクリアしつつも、その上でかなりに重たいメッセージを詰め込んでるんですよね。凄いです。凄いですよ。
「えっ。このライトな感覚でジェンダーやら差別の問題に踏み込んじゃうんだ?鳥獣戯画の体裁を借りて!?」という。
ズートピアは動物たちのユートピア、というノリでスタートするんですが。が、まあ予め云っておきますと、ズートピアはユートピア(楽園)じゃないんですね。欺瞞なんです。登場キャラクターが実際に劇中で言うんですからビックリします。
夢を見て都会に上京してきても挫折するだけだと。異種間の動物達も仲良いフリをしているだけ。平等なんて有り得ない。お互い認め合ってもいないしお互いに偏見がある。肉食動物は草食動物に偏見があり、草食動物は肉食動物に偏見がある。自分のサイズに合った仕事をしろと強制し、適材適所で仕事をさせたがる。カースト社会だ。と、まあハッキリここまでは云ってないんですけど、要約するとそういうことを云います。辛辣なんですが、そしてちょいと鬱になりそうなんですが、でもそれをジメジメさせないのがディズニーの技です。あまり暗くはさせず巧みにポンと放り込む。
その差別的な顛末のアンサーとして「この世に理想郷なんてないかもね。辛いことも沢山あるし、苦しいし。自分と違う人からは何も分かってもらえないから、挫けたりもする。皆と全てを理解し合える筈がない。けどね、全員が違っているんだから、違っていて当たり前なのだとわかったのなら、その上でお互いの存在を認めあわなくちゃ始まらない。理解をしなくていい。そこに居ることを認めよう。まずは共存することから始めよう」的なメッセージを説教臭くなく、スマートに語るのでね。唸ってしまいます。
傑作です。『アナと雪の女王』では「ありのまま」を歌い、今回は「ありのまま」じゃいられない、とそれを一回は否定する。でも最後には結局「ありのまま」を受け止める。これがディズニーの、今の答えなんでしょうね。
もう一度云います。傑作です。