劇場公開日 2015年12月12日

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「考える事が一杯あって面白い」独裁者と小さな孫 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0考える事が一杯あって面白い

2024年1月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

監督で脚本のマフマルバフさんはなかなか異色の人で、イランかな?で政治犯だった人なの。作品の終盤で出てくる、拷問受けたりしてた人たちみたいに投獄されてて、映画と同じようにクーデターで釈放されて亡命し映画監督やってるの。
そんなマフマルバフ監督の考えが、ちょっとざっくりした書き方をするけれど、独裁政権というのは、そのものや独裁者だけが悪いのではなくて、もっと根底にある人間の悪意が問題なのだというの。

その考え方がすごく作品にも反映されていて、というか、もうそのままって感じなんだ。
バッドエンドと書いている人がいるけれど、はたして本当にそうだろうか?人によっては、見方によってはバッドではないかもしれない。場合によってはハッピーエンドなのかもしれない。それくらい色々と考えてしまうし、ただ人の悪意と善意を描いただけでエンディングなどそもそも意味はないのかもしれない。だって作品内で描かれているテーマは何一つ解決しておらず、今も続いているのだから。
監督のお考えは、作品内では割りとシンプルに表現されているけれど、その本質は、もう思想とかのレベルですごく大局的だから、いまいちピンとこないけれど、言いたいことはすごく良くわかったし興味深い面白い作品だった。

何もわからない、何も知らない孫の視点で始まり、独裁者の力の強さとクーデターによる失脚を描いた。
中盤からは大統領の視点で、今まで自分が国や国民に対してしてきた、残虐なことなどを直接的にも間接的にも知っていく。
大統領の口数が徐々に減っていき、ラストの砂浜では一言も発さなくなる。視点が大統領から国民に移ったのだ。
この、様々な視点で物語を紡ぎ変化していくストーリー展開は面白いと思ったね。
その中で、最初は国民に対して文句を言っていた大統領が、次第に変化していく様子が一番の見所だろうな。

あとは、乾いた空気感とピリピリ差すような、スリラーに近いくらいの緊張感ある映像が良かったよね。
事を直接的に見せない演出も一種の力強さを醸し出しインパクトを残した。五年ぶりに家に帰った男の顔だけを映す場面と、砂浜でのエンディングが特に印象深い。

内容的にも演出的にも考える事が一杯あって、本当に面白い作品だったね。
名前のある登場人物がマリアとマリアの二人。これがわからなくてまだ考えてるくらい面白い。

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つとみ