エレファント・ソングのレビュー・感想・評価
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喪失という体験を抱えた先にあるもの
はじめ、憎ったらしかったマイケルが、徐々に愛らしくみえてくる。
この映画は、死を避け忌むだけの態度を取らない。
ある人の死が、苦しさも、そして時に苦しみを越えたものすら、人に与えるのだと。
生じる疑念、不信感、不明瞭さ、虚言、恐れ、死…煩わしいと感じるようなことを抱えながらそれでも付き合ううちに、ある一瞬、出会うことのある感覚。
じんわりと、しかし確かに、人間味を感じる映画だった。
人間は生まれながらにして死への欲望へ向かう
グザヴィエ・ドラン出演作は『神のゆらぎ』『胸騒ぎの恋人』に続いて3作目。その中では一番好きなタイプの作品だった。ただ基本的に院長室(?)での会話のシーンがメインのため、やや退屈に感じた。精神病患者の話と聞いて、フロイトの存在を思い出さずにはいられなかった。彼は人間は生まれながらにして死への欲望を抱いていると言い、私自身それは潜在的なものでしかないと思うのだけど、この映画ではマイケルがずっとその欲望に蓋をして、誰にも悟られないように院長や師長を翻弄していたのだろうと解釈した。カルテを読まないと条件を出すことで、最後にナッツ入りチョコを食べ、アレルギーで死ぬ…という流れはとても気に入りました。マイケルは自らの欲望を守り通したんだなぁと。ただ、他のレビュアーも書いているように、マイケルが精神病患者というよりはわがままな子供のようだという印象は確かにあった。見ていて苛立ちを覚えそうになる会話のやり取りも、彼自身の振る舞いも、精神病患者と言われるとそうではないような・・・という感じは否めない。
院長と一緒にマイケルに翻弄されました。
よくいく映画館で上映予定としながら、なかなか上映日が決まらなかったエレファントソング。ついに見られました。
水曜日に行ったので、会員以外も安いのでそこそこの入り。ひとえにグザヴィエ見たさよねーという感じ。私ももちろん演者グザヴィエが見たかったのです。
※以下ネタバレしてますので、ご注意を。
サスペンスチックに展開してゆくのですが、状況の整理がなかなかに集中力がいります。
構成としては、クリスマス休暇開けに、理事長が、院長と看護師長から事情を聞き出していて、休暇前の事故がなんだったのかを院長と看護師長が語るというものです。
クリスマス休暇前のこと、失踪したとされる先生の行方を、現場に疎い院長が何かを知っているらしい患者マイケルから聞き出そうとして面談をします。院長は看護師長の元夫で、看護師長との間にもうけた娘を事故で亡くしています。院長には後妻がおり、姪だというダウン症の少女を可愛がっています。後妻はこの姪を歓迎していない様子です。
院長はマイケルの口車に乗せられて、契約とやらに縛られながら話を進める羽目になります。なので、マイケルのカルテを読めていません。
最終的には死を望んでいたマイケルがアレルギーのあるピーナツチョコを食べて自殺するというオチです。
マイケルは失踪したとされる先生がすきだったし、失踪したとされる先生もマイケルを愛していましたが、それは精神的な愛であり、肉体を伴わないのでした。
マイケルは先生に触れることも含めた愛を望んでいたので絶望したのでしょうか。
先生は失踪しておらず、姉が倒れたので病院に行きます!というメモを残していたのですが、そのメモをマイケルが、隠していたのです。
時々子供の頃のマイケルの回想も入ってきます。母は(キューバの人で良いのかしら?)高名なオペラ歌手でしたが、自殺しました。父は一度しか会ったことがなくて、アフリカに住む人でした。父がサバンナで象を撃ち(密猟?)、象の死と母の死がマイケルの精神を蝕んだため5年も精神病院に入院したということなんでしょうな。
上手くまとめられないのが、悲しいですが、本当のことを言ってるかどうか信用できないけど魅力的なマイケルに院長と一緒に翻弄されたという感じです。
まさか自殺幇助されられるとは!でした。
エレファントソングのあとに、鏡という10分くらいの短編が上映されました。
10歳かそこらの、グザヴィエが避暑地で出会った美貌の青年にドッキドキして、性に目覚めてゆく日々が切り取られたような作品でした。
若いグザヴィエですが、表情が今とそう変わらないのが驚きです。
愛されない哀しさ
父を知らず華やかな世界の母は自分の存在を疎ましく思っている。愛されることを知らず居場所がない、唯一落ち着いた精神病院で愛されたのは担当医だったが決して自分に触れてくれなかった。人はたったひとつの愛でもよいから必要なんだろう。
マイケル扮したグザヴィエ・ドランは言葉を操り人を翻弄するのが楽しくて仕方ない、挑発的、計算高く人の心を見透かす患者を素晴らしい演技で演じていた。
ナッツ入りのチョコレートで自殺してしまうマイケル。マイケルの人生にたった一人でもいいからきつく抱きしめて愛してると言ってあげる人がいたら、そんな選択はなかったんだろうな。
うーん…
ドラン目当ての鑑賞。
寝ました、でも寝て起きても大体内容が理解出来てしまいました。
正直、観た感想としてはピーナッツアレルギーの精神病患者がピーナッツ入りチョコレートを食べて自殺する話。以上です。
でも、ドランの演技力は好きでした。
惹きつけられなかった
グザヴィエ監督作ではありませんが、グザヴィエ目当てで鑑賞しました。旬のグザヴィエが観ることができる位しか良い所はありません。
まず、精神疾患であるマイケルの狂気や悲しみにイマイチ感情移入することができませんでした。彼は言葉で私達を翻弄しようとしますが、乗り切れなかったです。
また、両親への愛を渇望する背景が突拍子がなさすぎて、「さすがにそれはないだろう」と思ってしまいました 。
決して普遍的な作りにして欲しい訳ではありませんが、頭でっかちな思春期の子供が考えた様なストーリーに思えてしまいました。原作は戯曲とのことですが、こちらも同じ様な作りか観てみたい気もします。
ラストも拍子抜けというか、もう少し策があったのでは?「精神構造」がテーマなのに、痛みの作り込みが甘かったです。
揺さぶられた
すごく心を揺さぶられた。
最初は、マイケルの心理を解き明かしていくサスペンスかと思ってたけど、実はグリーン先生と看護師長の心の傷を癒していくお話だと感じた。
姪っ子が病院に来てからは、先生と市長の中でマイケルと死んだ娘が徐々に重なって、マイケルを再生させようとするシーンで完全に両者は同一となり、2人は2度も子供を失う体験をしてしまう。しかし、その過程で2人はお互い相手の追体験をすることでようやく理解し合える、というか許しあえる。
そこがあまりに悲しくて、最後のシーンでは涙が止まらなかった。
今年文句無しのナンバーワン作品。
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