「心が蝕まれ壊れゆく姿を淡々と描く作品。」アメリカン・スナイパー Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
心が蝕まれ壊れゆく姿を淡々と描く作品。
“伝説”と謳われた狙撃手クリス・カイル。
彼の四度に亘るイラク派遣時の体験を通して描かれるのは……戦争体験者の心の傷、PTSD。
戦地で生じた歪みが米国での日常生活の中で垣間見える。
派遣回数を重ねることで歪みが大きくなっていく。
その原因である戦場が、結果である日常が淡々と描かれています。
淡々と描くことにより炙り出される“何か”。
イーストウッド監督の伝えたい“何か”の表現方法にグッときました。
狙撃場面もグッときた。
或る場面を除き、殆どの狙撃場面に爽快感や達成感は無く。
無機質な一連作業の結果、敵兵が排除される。
機械のような精密さを持つ“伝説”。
その“伝説”が躊躇し葛藤する冒頭の狙撃場面。
中盤の対となる狙撃場面と併せて非常に印象的でした。
役者陣も良かった。
特筆すべきはクリスを演じるブラッドリー・クーパー。
役作りのため体を鍛えて大増量。
周りより一回り以上大きい躰は話に納得感を与えていました。
また次第に壊れていく過程の演技も良く。
明るく喧しい印象が強い彼の新たな側面が新鮮でした。
心が蝕まれ壊れゆく姿を淡々と描く本作。
“伝説”と呼ばれた男の創造、破壊、再生が描かれる中。
……突如差し込まれる結末。
異質な映像から滲み出る空虚さ、違和感。
整理できない気持ちを抱きつつ迎えるエンドロール。
その強烈なインパクトに息を呑みました。
気圧され席を立てなくなった観客達を体感するためにも是非劇場で。
オススメです。
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