「英雄と讃えられた一人の戦争被害者への鎮魂歌」アメリカン・スナイパー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
英雄と讃えられた一人の戦争被害者への鎮魂歌
クリント・イーストウッドの前作「ジャージー・ボーイズ」は確かに好編だったが、世間の評判ほど響くものが無かった。
イーストウッド作品へのハードルは、宮崎作品同様、つい上がってしまう。
「ミリオンダラー・ベイビー」「チェンジリング」「グラン・トリノ」のようなメガトン級の作品を期待するのはもう酷かなと思っていたら…!
アメリカ海兵隊最強の狙撃手と言われたクリス・カイルの回顧録を映画化した本作。
既に伝えられている通り、アメリカではアメコミ映画並みのメガヒット、また84歳にして自身最高の興行収入を樹立。
イーストウッド、恐るべし!
息が詰まりそうなほどの緊張感、緊迫感!
ドキュメンタリーのような臨場感。
9・11から続く現情勢を交えた硬派な内容ながら、エンタメ性も充分。
まさしく超一級品!
タイトルに“アメリカン”とつき、戦争やネイビーシールズが題材故、アメリカのプロパガンダ映画と思いがち。
人それぞれ見方・意見はあるだろうが、そうは感じなかった。
クリス・カイルはテキサスの荒くれ者で、愛国心強く、強いアメリカの正義を信じる男だ。
そんな彼が度重なる任務で蝕み、病んでいく。
任務とは言え、女子供を射殺して平常心で居られる訳が無い。
英雄としての姿ではなく、英雄と讃えられた男の内面を、ヒリヒリと、じっくり描写。
戦争に英雄など居ない。「父親たちの星条旗」と同じテーマだ。
本作最大の功労者はイーストウッド以上に、主演のブラッドリー・クーパー。
映画化権を獲得し、プロデュースも兼任、大幅に増量しての熱演。
オスカーノミネートはサプライズと言われたが、実際見る限り、妥当。
妻を愛し、子供を愛し、家族を大事にする一人の男。
任務を果たしただけ。
戦争の狂気が狂わせた。
戦争から解放されて、待ち受けていたのは…。
彼も戦争被害者なのだ。
話題のエンディングは、そんな彼への鎮魂歌。