「「君の代わりは何処にも居ない」と「代わりなんて幾らでも居る」のはざま」道頓堀よ、泣かせてくれ! DOCUMENTARY of NMB48 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「君の代わりは何処にも居ない」と「代わりなんて幾らでも居る」のはざま

2016年2月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「フタバより遠く離れて」の舩橋監督作と知って俄然興味が湧き、気恥ずかしさを乗り越えて劇場に足を運んだ。過去にもたまたまAKBブランドのドキュメンタリーを観たことがあるが、観ごたえは本作が格段に上。ファン向けではなく、AKBやNMBを全く知らない海外の人にも通用する作品だと思う。明らかにスターの輝きを持ち、安心して見ていられる中心メンバーだけではなく、その他大勢に紛れてしまいそうな危うい存在のメンバーにも目を向け、丁寧に追っている点が、ドキュメンタリーとしての面白さや深みを与えていた。
繰り返し考えさせられたのは、「君の代わりは何処にも居ない」と「代わりなんて幾らでも居る」のはざまについて。アイドルである彼女たちは、当然前者を目指す。しかし現実には、日々後者に向き合わざるを得ない。
私たち一般人が仕事を続ける中でも、この二つのバランスは悩みどころだ。前者であってこそやりがいがあるけれど、そればかりではしんどい。行き詰まったり燃え尽きたりしそうな時などは、後者が救いや支えになる。ところが、アイドルという職業では、後者は決定的な打撃となってしまう。そんな中、家族にとっての彼女たちは、確実に「代わりはいない 」存在であり、家族との繋がりが重要な意味を成していると感じた。劇中、2組の家族が登場するが、それぞれに、ぎこちないながらも和やかな空気が流れており、印象に残った。
加えて、彼女たちを追いながら思い起こしたのは、たまたま最近関わるようになった同年代の少女たちと、少し年上の新社会人たちだ。同年代の彼女たちを知るまで、AKBブランドは同性受けしないものと思っていた。ところが、彼女たちは、食い入るように歌い踊るメンバーたちを見つめ、総選挙に入れ込む子もいる。理由を聞くと「かわいいから」くらいしか答えてくれず、疑問が解けずにいたが、本作のおかげで、少し理由が分かった気がした。「今だからこそ」の輝きをつかんで存分に活かし、磨きたい。でも、その先への不安や諦めもある。だからと言って立ち止まれない。…否応なしにじわじわと決断を迫られる十代は、つくづく酷な年代だなと感じさせられる。(私個人は、あまり戻りたくない…。)同年代には、まさに彼女たちは、近くて遠く、遠くて近い、共感を呼ぶ存在なのかもしれない。
また、私の職場は、毎年たくさんの新人がやって来るが、いつの間にか、ふっと去っていく人が少なくない。一方、グループを辞めていくメンバーたちは「◯◯を目指すため」と理由を明確にして去るが、これもハードなことだと感じた。「疲れたから」「向いてないから」「…とりあえず休みたい」は、ない。辞める瞬間まで、いや辞めてからでさえも、彼女たちはアイドルであることをどこか求められているのだ。…どう折り合うかは本人次第とはいえ。
AKBブランド・ドキュメンタリーは今後も作られていくのだろう。是非、舩橋監督には(辞めたメンバーを含め)今後も彼女たちは追い続けてほしいと思う。

cma