「悲しみ方が美しすぎる」エベレスト 3D SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
悲しみ方が美しすぎる
映像的には今年一番の期待と思い、IMAX 3Dで観た。
また、実話に基づく話、ということで、エベレスト登頂の過酷さの一端だけでも理解したかった、という気持ちもあった。
でも、やや期待はずれ。
■ストーリーに関して
深い感動や教訓があったとか、考えさせられたところがあったかというと、そうでもない。
それは、全般にあまりにも美談すぎるし、人々の悲しみ方も美しすぎて、現実の生々しさが感じられなかったから。
みんなみんな善い人ばかりだったけど、エベレストは過酷で、「仕方なく」命を落としてしまったんだよね。そんな話に見えてしまう。
果たして、本当にこんな事故が現実に起きた時、あんな風に皆が皆、美しく悲しむものなんだろうか?
悲劇を受け入れられない怒りや責任転嫁、罵り合いなんかが起こるんじゃないかと思う。
事故への対処も、責任者だったら感情を表すことなんかしないで、もっと事務的に振る舞うのではないか。
Wikipedia 「1996年のエベレスト大量遭難」を見ると、実際には映画できちんと語られていないいろいろな生々しい問題があったようで、起こるべきして起こった事故、という印象。
決して、「万全の状態だったけど仕方なく起こった」というようなものではなかったのではないか(もちろんこの映画でも人為的な要因を示してはいるけど、最終的に家族愛の話にしてしまっていて、そうした「人為的過ち」は印象に残らない)。
ストーリー的には、「一番の謎」が充分に明かされておらず、もやもやしてしまう。それは、なぜ登山のプロであるロブが、2時に引き返す、ということを徹底させられなかったのか、ということ。
これは映画だけみるとまるで美談のように見えてしまうが、実際にはこの点だけでなく全体的に素人を登山させるということに対して見通しが甘すぎた、ということのようだ。6万5千ドルという超高額の料金だったため、お客も諦めきれず、ロブも断りきれなかった、ということかも知れない。
あと、エベレスト登頂の過酷さは映像だけで伝えるには難しい、ということも思った。
酸素欠乏、寒さ、といったものが、生物学的にどのように問題で、どのような症状を起こすのか、通常のエベレスト登頂と今回では何が違ったのか、などということなどが、「知識」として分かっていないと、何が起こっているのかわかりにくいのではないか。
過酷さを伝える情報として、気温、気圧、時間経過(ベース出発から何時間、みたいな感じで)などもあると思うが、そうしたものがもう少しあるだけでもだいぶ違うんではないか。
■映像に関して
期待しすぎてしまったせいか、うーん、こんなものなのか? と思ってしまった。
映画本編の前の、各会社のロゴが出てくるところが一番きれいだと思った。
「アバター」は遠景とか本当にきれいに見えたのだけど、なぜか今回は、わあ、きれいだなあ、という単純な感動がなかった。
エベレスト頂上の素晴らしさとか、カタルシスみたいなものもそれほどでもなく、だから、それが命と引き換えにしてでも得たいものである、という共感ができなかった。
本当にひどいことを言うと、わざわざ望んでそんな過酷なことをして、命を落としてしまった彼らが、愚か者に見えてしまう。
「いや、そうじゃないんだ。そんなはずはないんだ。彼らは立派なんだ」と心の中で補正しないといけない感じ。