「迫真の3D! 凄腕のプロでも飲み込んでしまう運命の儚さ!」エベレスト 3D 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
迫真の3D! 凄腕のプロでも飲み込んでしまう運命の儚さ!
迫真の3D!!!
映画と分かっていても、避けたクレパスの上をハシゴ越しに渡るシーンでは、奥深さが立体的に眼前に迫ります。しかもタイムリーにすぐそばの氷塊が崩壊して、押し寄せてきて、ギョッと身をのけ反らせてしまいました。半端ない恐怖! そこらのホラー作品を軽く通り越した緊迫感です。
物語は、1996年にエベレスト登頂で11名の大量遭難者を生み出した実話を忠実に再現しています。
ヒマラヤ山脈に位置する世界最高峰、エベレスト。1953年に初登頂がなされて以来、世界中の登山家を魅了し続けるその山は、困難な攻略が一巡すると経験を積んだ登山家の攻略対象ではなくなり商業化が進むことになりました。
1980年代には富豪や高所得者による七大陸最高峰の人気が沸騰。1990年代半ばには公募隊による登山が主流となり、アマチュア登山家であっても必要な費用を負担すれば容易にエベレスト登山に参加できるようになったというのが事故の背景にあります。
たとえプロの経験豊富な登山コンサルタントであったとしても、エベレストは今でも同時に地球上で最も生きるのが難しい場所です。標高8,848メートルの山頂に酸素の供給を受けずに長時間留まれば、肉体と意識の機能は停止。まさに死の領域<デス・ゾーン>です。
本作は、登頂の夢をかなえるためエベレストへやって来た世界各国の登山家たちが、自然が猛威をふるう<デス・ゾーン>で生き残りを賭けた闘いに挑む姿を、3Dならではの圧倒的な迫力で映像化。これまで山岳映画は好きなジャンルで、各国の作品を見てきましたが、最もエキサイティングで最も壮絶なサバイバルを体感させてくれた作品となりました。
本作の群像劇を彩るキャストもかなり豪華です。
中心人物となるアドベンチャー・コンサルタンツ隊(AC隊)の隊長ロブ・ホールを演じるのは、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のジョン・コナー役で注目を集めるジェイソン・クラーク。マウンテン・マッドネス(MM隊)という登山ガイド社の社長スコット・フィッシャー役には、『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホール。下山のタイミングを逸してしまうアメリカ人登山家のベック・ウェザーズには、『ミルク』でアカデミー賞にノミネートされたジョシュ・ブローリン。遭難事故を知って救助に駆け付ける登山ガイドのガイ・コッターには、『アバター』のサム・ワーシントン。さらに、ホールの帰りを故郷で待つ妊娠中の妻の役どころで、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のキーラ・ナイトレイが出演。なかなか豪華でしょ!
そんな一流キャストが実際にエベレストに登って、過酷な撮影に挑んでいるというところも本作の凄いところです。臨場感あふれる映像は、極限状況に置かれた人々の群像劇を緊張感満点に描き出して、もはや演技を通り越した、山岳ドキメンタリーといっても過言ではありません。
物語は、ニュージーランドで登山ガイド会社「アドベンチャー・コンサルタンツ」を営むロブ・ホールの率いる登頂ツアーがネパールに到着したところから始まります。エベレストのベースキャンプ(標高5,364メートル)で約1カ月間入念な準備を整えた後、頂上を目指す冒険に出発した一行は、別の登山隊と協力体制を組みながら順調に第4キャンプ(標高7,951メートル)まで登っていきます。
天下のエベレスト制覇も、商業登山の専門スタッフがサボートすればチョロいものかと思えるような前半でした。
しかし、頂上目指す直前で想定外のことが起こります。固定ロープの不備や参加者の体調不良などでスケジュールが狂い、下山が大幅に遅れてしまうのです。
そこへ未曾有の嵐の接近で急激に天候が悪化。登頂時には好天だったエベレストが登山隊に牙を向きます。次々とその牙に飲み込まれていく隊員たち。待ち受ける過酷な運命。
ロブ隊長やスタッフのわずかな判断の狂いが、運命の分かれ道となりました。
<デス・ゾーン>で散り散りになった登山家たちは、ブリザードと酸欠との過酷を極めた闘いの中で個々の生き残りの能力を試されることになります。11名の大量遭難者を生み出した運命を決めたのは、何だったのか。不吹雪のなか動けなくなり絶命したと思われた隊員が自力で生還できたり、わずか2時間のドラマの中で、人の運命の儚さを思わずにいられなくなる物語でした。
感動的なのは、ロブ隊長の最後のシーン。Wikiに詳しく紹介されているので、ネタバレします。妻のジャンはあと数ヵ月で出産で、夫の帰りを楽しみにしていたのに、残酷にも死期を悟った遭難した夫から、衛星電話で直接はなすことに。産まれてくる娘の名前をサラにしてくれと、命を振り絞って語るシーンに、グッときました。
余談ですが、エンドロールに15歳になったサラの姿が紹介されます。15歳で母とともにキリマンジャロ登頂に成功したそうです。
また奇跡的に助かったベックをヘリコプターで救出するシーンも迫力がありました。空気が希薄な高地では、ヘリコプターは飛べません。それでもベックの妻が大統領に懇願して、危険を恐れず救助させたのでした。今にも墜落しそうでドキッとしますよ。
非常に登場人物が多い本作は、誰が誰だか分かりづらくなります。そこでWikiの「1996年のエベレスト大量遭難」の項目を読んで、鑑賞前の予習をお勧めしておきます。
長くなりましたが、本作を見ていて凄く疑問に思う大量遭難のわけを手短に紹介しておきます。
商業化によって、シェルパやガイドによるルート工作や荷揚げが前もって行われるため、本来なら必要であった登攀技術や経験を持たないまま入山する素人登山者が増えたことが本作の背景にあります。ちなみにAC隊の参加費用は、650ドルでした。
そんな技術、体力ともに稚拙な「顧客」メンバーの牽引に人手を割かれたことで、事故当時は予定していた山頂までのルート工作を完成させることができなかったことが、登山計画を大幅に狂わせることになります。標高8350mに位置する「バルコニー」と呼ばれる通過ポイントに固定ロープが設置されないままになっていたのです。ロープが張られるまで、登頂者は待機することに。その結果登山家が渋滞し、長時間待つような時間浪費を強いられることになってしまいました。
もちろん渋滞することは事前に予想されていた危惧でした。たまたま5月10日登頂予定はAC隊やMM隊のほか、映画撮影のIMAX隊や台湾隊、南アフリカ隊の5隊がひしめいていたのです。ロブが渋滞を避けるために登頂日を分ける事前の取り決めを提案しても各隊は協力に応じようとしません。結局同じ日に全ての隊が登頂することになってしまいました。
経験豊富なロブは、これまで頂上が前に見えていても14時になったら引き返すように参加者に強く指導してきました。けれども、予定外のアクシデント連発で、最初の登頂ですら1時間も遅れてしまったのです。
さらにロブは大きく遅れた顧客のダグを待ち、頂上に1時間以上留まったため、嵐の直撃を受けることになり、結局下山できなくなってしまったのです。
ほんとうにエベレスト登頂においては、プロ中のプロでさえ、ちょっとした判断の甘さで、生死を分けることになることになるのですね。