エベレスト 3D : 映画評論・批評
2015年11月4日更新
2015年11月6日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
3D映画の可能性をまたひとつ示した、身の縮むような立体効果が生む実話の迫真性
3D映画はイベント性やライド感といったものが伴う性質上、作品として扱うテーマには一定の配慮を要する。特にそれが多くの犠牲者を出した実際の事件だったりすると「人の不幸をハデな見世物にするのか」という否定も誘引するだろう。「アバター」(09)でデジタル3Dの隆盛をうながしたジェームズ・キャメロン監督も、世界的大ヒットとなった自作「タイタニック」(97)を3D加工したさい「そこは慎重に検討せざるをえなかった」と来日記者会見時に語っていたくらいだ。
「エベレスト3D」も、エベレスト登山中に雪嵐に巻き込まれ、11人もの命を失った登山者グループの悲惨な実話に基づく物語だ。しかし、本作の立体効果は同山のフォルムの美しさや、あるいは壮大なさまを演出することのみに費やされているのではない。それこそ滑落すれば死に至る山のすさまじい高低差や、不気味な口をあんぐりと開けたクレバスの底知れぬ深さ。あるいは目を突き刺すようなブリザードの雪粒や、視界をさえぎる濃霧のジワジワ迫る接近感など、どの3Dも登山の危険性をいやがうえにも感じさせ、過酷な自然環境に思慮なく身を置くことへのリスクを強調する。
そう、本作は豪華で個性豊かなアンサンブルキャストや、極地に挑む人間の冒険心を讃える宣伝からは見えづらいが、人の矮小さや愚かさを自覚させ、生や死と真摯に向き合う映画なのだ。エベレスト登山のレジャー化や商業化が大自然の猛威と合わせ重なり、登山家たちにもたらした凄絶な末路。観客がそれをリアルに感じることで、改めて自然との関わりに対する意識を強くする。地球上で最も危険なスポットを踏破するため、身を危険にさらすクライマーの勇気に敬服しつつ。
3Dはそのための、何にも増して効力を放つ誘導装置なのである。
「高所恐怖症殺し」といっても過言ではない、身の縮むような立体効果を通して得る山岳実話の迫真性。決して心地よいハッピーエンドとは言えないが、3D映画の可能性をまたひとつ示したことに、創造の前進を覚える作品だ。心してご覧いただきたい。
(尾﨑一男)