とうもろこしの島のレビュー・感想・評価
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生の連鎖の中に少女の成長を描く
紛争とは命を摘む行為だ。人の営みから外れているともいえる。
その紛争と対になるものとしてとうもろこしの島がある。生きるために土を耕し、小屋を建て、漁をし、とうもろこしを育てる。
そして老人と共に島の手伝いをする少女の成長がある。子どもから大人へと成長することは正に紛争とは正反対の出来事だ。
少女の成長について細かく書きたいがゲスい感じになってしまいそうなので割愛する。
ボケっと観てたら気づかないかもしれないけど「子どもから大人になる」で察して下さい。
老人が最初に島にきたときに土を掘り何かをポケットに入れた。ずっと何なのか気になっていたのだが、その答えはエンディングで明らかになる。
とうもろこしの島と共に朽ちた老人。少女の成長は人の営みの一部分だ。生まれ育つ者がいれば当然死ぬ者もいる。そうやって人は続いてきた。
濁流に流され更地になったとうもろこしの島に新たな男が来る。最初の老人と同じように土を掘り、少女が持っていた人形を手にする。
生まれて死ぬを繰り返すように島もまた生まれて死にまた生まれるのだ。その連鎖を実感するためのものがポケットに入れた何かなのだと分かる。
老人と少女以外には兵士しか登場しない。
ポケットの中の何かを眺め生を実感する老人には命を奪い合う兵士は酷く愚かな者に見えたに違いない。
しかし場所は紛争のど真ん中。どちら側の兵士も老人に手出しはしないものの、川のアチラ側とコチラ側で争っている中で生きるのは簡単なことではなく、直接の原因ではないとはいえ敵兵を助けたことで収穫が遅れ、老人は少女の卒業を見届けることができなかった。
助けた兵士は少女の恋心の対象でもあり、一つの場所、少ない登場人物というシンプルさながら巧妙な脚本だと感心してしまう。
最初のセリフまで20分。次のセリフまで更に30分。セリフは全部で10くらいだろうか。
セリフで説明されないと何も分からないような人には面白い面白くない以前に意味不明なことだろう。
普段、商業的な娯楽作ばかり観ている人も楽しめないかもしれない。
しかしこれでいい。映画は映像を観るものだ。見たものから何を考え何を思うかが大事なのだ。
傑作とまでは思わないけれど、静かで硬派な良作だ。
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