「近未来の人類の問題に戦慄」エレナの惑い よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
近未来の人類の問題に戦慄
自立の意志に欠けるどうしようもない息子を溺愛する母親の姿は、今年公開されたルーマニア映画「私の息子」と重なる。
社会が豊かになると、この豊かさのバスに乗り遅れた者の中には、不平等や運の悪さばかりを言い訳にして自助努力をしない人間が現れる。旧共産圏に限らず我が国にもありふれたケースである。
主人公エレナは、悪い状況の原因は息子自身の無気力や怠惰であることを分かっている。しかし、彼女が最後に下す決断は良心に反したものだった。我が子を導くどころか、その無気力にとめどもなく経済力を費やす親の姿。これがわが国だけでなく、諸外国でも珍しいことではなくなったいるこの世界は一体どうなるのだろう。一国の問題ではなく、大げさかもしれないが、人類の問題のように思えて戦慄を覚える。
何よりもこの救いがたい状況を象徴しているのはラストのシーン。死んだ夫の使っていたベッドで赤ん坊の孫が寝そべっている。家族の平安を示すアイコンが、恐るべき犯罪が行われた亡き夫のベッドの上で微笑んでいる光景のなんと皮肉なことか。我々の子孫は、親世代の築き上げた資産の切り崩しでしか生きてはいけないという恐ろしい話に思えた。
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