「木っ端微塵のあとの虚無感」草原の実験 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
木っ端微塵のあとの虚無感
台詞がない」ことと、「驚きの結末」ということ意外には、何の予備知識もなく見に行きました。
タイトルから、人体実験の話とか実は外の世界は滅びているのかな、なーんてSF的な展開を想像してみたり。
見事裏切られましたね(笑)
映像が始まったら、あれこれ邪推せずに自然の美しさや丁寧な生活の描写の流れるままに、心を委ねました。
羊の毛の柔らかさを想像し、水が土を這う様に喉の乾きを覚え、かさついたパンと羊の肉に食欲を、毎日同じことの繰り返しの中に漂う幸福を感じながら。
そしてこの話はどこでオチがつくのかと考え始めたところで、唐突に終わりを告げたラストには、予想していたより遥かに鮮烈なショックを受けました。
兵隊が登場したあたりから不穏な空気が漂ってきていたので、「そっち系の話かな」とは思いつつも…。
風が揺らすカーテンのたなびきも、傾いだ家のそこここから漏れる太陽の温もりも、淡い恋の睦み合いも、木っ端微塵に吹き飛んだ後の虚無感。
悲しいとか苦しいとか切ないとか感情がまったく浮かんでこない。
小さな脳みそで繰り広げられる個々の世界など、あの暴力的なエネルギーの前では存在さえ無かったに等しい。
きっと宇宙空間に放り出されて目の前で星が爆発したとしたら、その瞬間なんの感情も湧かないんだろうと思う。なにかそれに似た感覚。
報道写真でよくみられる、大規模な戦禍のあと廃墟の前に佇む人の顔が、みな揃って虚ろな理由がわかるような気がする。 人間的な感情は、それが「人間の所業」によるものだとようやっと実感してから、後から後からわいてくるのだと思う。
帰ってからチラシをみたら、そこここにヒントが書いてありましたね(笑) 。
アンドレイ・タルコフスキーを彷彿とさせる、旧カザフスタンであった実話をベースに…などなど。 セミパラミンスク核実験場がベースでしょうか。
主役のエレーナ・アンは、今は父親と共に韓国に移り住み、韓国語を習っているそうで、女優業には興味がないそうです。勿体ない…。
しかし映画のアンより大分印象が違う…特に目のあたりが… あのときのアンの魅力があってこその、映画といえるでしょう。 彼女のしなやかな清々しさが、ある種のファンタジーさを映画に添えています。