「美術が素晴らしい」FOUJITA よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
美術が素晴らしい
セット、大道具、小道具と美術が素晴らしい。それは、フランス編と日本編を問わずにどちらも素晴らしい。ともに時代の肌触りとでも言おうか、主人公が生きた時代に観客を誘うに充分な出来栄えだ。
とくに、蚤の市で主人公らが愛でる品々は、どこかの骨董品を持ってきたのか、それとも作ったのかは分からない。それでも、あの姉妹が手放した人形の家は、そうしたものがプラスチックで大量生産されたおもちゃを手にしていた世代の私には、あの小さな家の質感がうらやましくてならなかった。
主人公・藤田嗣治は、若い時にはパリで新進画家としてもてはやされ、帰国してからは戦争画の巨匠として陸軍の求めに応じて絵を描く。映画はそんな藤田の変節を非難するでもなく、まして、パリ時代の浮かれぶりを笑うでもない。
周囲がどう変わろうとも、淡々と絵を描く喜びを追い求める。パリでのばか騒ぎも、太平洋戦争も、藤田にとってはそこへ身を投ずれば投ずるほどに、人は所詮一人なのだという現実を知るだけだ。
芸術家の冷静な現実感とみるか、それとも求道者の狂気とみるかによって、ラストの不思議な世界の持つ意味が変わってこよう。
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