「粛々と生きる」おみおくりの作法 aoikaze0513さんの映画レビュー(感想・評価)
粛々と生きる
民生係のジョン・メイの職務は孤独死した人を弔うこと。孤独死したということは、家族も友人もいなかったり、見捨てられてたりしてる人たちが多いということ。そんな見ず知らずの訳ありな人たちの弔いのためにそれぞれにふさわしいBGMを選んだり、弔辞を書いたり、写真を見つけ出してアルバムを作ったり…と職務以上のことにも取り組んでいくジョン。
几帳面で実直すぎるほどの人格は、時に笑いさえもひきおこす。(それが伏線にもなるのだけれど…)
ジョン自身も家族もない孤独な人間であるということが、そういう職務に粛々と取り組ませる所以だろうか?
上司の「死者に思いなど存在しない」という言葉に抗い、必要以上に思い入れしてしまうことが災いして、ビリー・ストークというならず者の案件が最後の仕事となるのだが、彼の人生を紐解く旅にに懸けるジョンの誠意があまりにも熱意がこめられているもので、観ている者もつい惹きこまれて応援したくなってしまう。
そんな旅の中でジョンがいろんな人に出会うことで巻き起こる心の変化に、自分もクスッと笑えたり、切なく思えたり、いつの間にかジョンといっしょに旅をしてる気になってしまう。素朴なイギリスの街の風景やそこに暮らす人々や飲食物にも想いを馳せて…
ほのかに芽生えた孤独なジョンの恋心。そして実直さを失う瞬間。間もなく予想を裏切る形の衝撃的なラストを迎えるのだけれど、なんとも切なくて胸が締めつけられる。でもあの結末だからこそジョンを通して生きることの儚さ、喜びが一人一人の胸に深く刻まれることになったと思う。
原題の『Still Life』もさることながら、配給会社の社名が「Bitter End」とは秀逸すぎますね⁉︎
奇しくも同時期に上映されている邦画の『悼む人』の坂築静人の悼む旅とも重なり、自分自身の死生観についてもいろいろ考えさせられるきっかけになりました。