「本当に素晴らしい映画」おみおくりの作法 くーさんの映画レビュー(感想・評価)
本当に素晴らしい映画
劇場公開時に映画館で観て、数年経ち、
ラストシーンがとても素敵で印象的だったのが記憶にあり、U-NEXTで2度目の観賞。
私は未婚で子はなく、兄弟とも疎遠なので、
孤独死かつ誰にもみおくられないことが確定している。
死ねば自分の後始末はできないから、誰かに面倒をかけてしまうことになる。
大家、警察、あるいは特殊清掃業者が『片付け』をしてくれるのだろうが、
孤独死した厄介者がジョン・メイのように一人ひとり心を込めておくってくれる人に恵まれるかはわからない…
だから、一人ひとり心を込めて弔辞を書き音楽を選び参列して、写真を丁寧にアルバムに綴じていくジョン・メイの姿勢は、胸に迫るものがあった。
以前市役所の戸籍係で勤めていて、
死亡日不明の死亡届を受理することが何度もあった。
福祉の分野は明るくないが、
親族が見つけられなかった場合など、死亡地の福祉事務所長が届出人となるケースも多々あった。
全く知らない人だけれど、
自分も同じ道をたどると思うからか、特別に迫ってくる感情があった。
最後の仕事になったビリーの件、
生前のビリーは良くは語られないことが多いのに
ああいう葬儀になったのは、
ジョン・メイという人ががあそこまでしたからだろう。
Just my job. 仕事です、と言っていたが
彼はビリーの娘の心のわだかまりと癒えない怒りを溶かした。
だから、ジョン・メイにはケリーとあの犬のカップを挟んで語り合い、幸せになってほしかった。
エンディングを覚えていたから彼が亡くなることは知っていたはずなのに、
あのタイミングであんな風に、というのは覚えていなくて、
思いやりにあふれた、たくさんの人が集まったビリーの埋葬の横を
質素な棺で仕事だから付き添っている人に運ばれていくのがとてもかなしく、やりきれなかった。
土をかぶせたあと早々に立ち去る二人に埋葬されたジョン・メイ。
何か感じるのか、彼の方をケリーが何度も見遣っていたのがたまらなかった。
そして、彼が心を込めた22年間のJob をおもわせるラスト。
細かいところまで丁寧につくられ、本当に色々と考えさせてくれる良い映画。
原題のSTILL LIFE がまた、すばらしい。
観ているときは上司をけしからんと思い、ジョン・メイを素晴らしいと思うのに、
実際に自分が彼のようにやれるかと考えると…
正直できないと思ってしまう。
それでも、ジョン・メイのように働き、生きたいなと思った。
人を想い、人に優しく、誠実に生きていくこと。
それが、何も持てずにこの世から去るとき自分をあたためてくれる唯一のものな気がした。
たとえ、生きているときは孤独でも。
とても良い映画。
こういう映画をテレビで放映すればいいのにな。。
人気芸能人や有名ハリウッドスターが出る大作ばかりが映画館の上映スケジュールを埋め尽くす現状は、さみしい。