劇場公開日 2014年11月1日

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光の音色 THE BACK HORN Film : インタビュー

2014年10月30日更新
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熊切和嘉監督×THE BACK HORN、初タッグ作「光の音色 THE BACK HORN Film」を語りつくす

鬼才・熊切和嘉監督がメガホンをとり、孤高のロックバンド「THE BACK HORN」が紡ぐ世界をスクリーンに映し出す「光の音色 THE BACK HORN Film」。ロシア・ウラジオストクの荒野で撮影を敢行し、バンドの楽曲とひとり歩みを進める老人の物語が化学反応を見せる。熊切監督は、“共鳴”をキーワードにしてきたバンドとともに、どのような思いを込めたのか。(取材・文・写真/編集部)

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本作は、日本での劇場公開を前に、第12回ウラジオストク映画祭でワールドプレミア上映を迎えた。熊切監督は、「ロシアの方はTHE BACK HORNを初めて聞いたと思うのですが、上映後に拍手が起こって伝わった感じがしました。上映後の質疑応答では、マイクを離さずに映画がいかに素晴らしいかを語ってくれる人が現れて嬉しかった」と手ごたえは十分だ。

映画は、THE BACK HORNによるライブパートとドラマパートで構成。これまでにない形で完成した作品だが、「音楽を好きな人が映画館に来てくれるような音楽映画を作りたい」という製作サイドの思いからスタートし、「(ツアー・ライブDVDなど)同じようなものより、もっと可能性の広がるものが作れたらいいなという漠然とした思いから始まった」(ドラム・松田晋二)。

熊切監督も「僕のデビューの年と彼らの結成された年が同じで、初期にPVを撮らないかっていう話をもらったことがある。その時はスケジュールが合わなくてできなかったけれど、10年以上経って再びTHE BACK HORNの話がきたことにすごく縁を感じた」と明かす。そして、「普通のライブ映画にはしたくはないというメンバーの思いは聞いていたので、サイレント映画を伴奏つきで見せる、セリフはないけれど音楽で感情を語る」スタイルを選び、「すべてが終った世界の果てで、風の音や水の音といったものが折り重なってメロディのようになり、そこから音楽が再び生まれるというような出だしイメージが思い浮かんだんです。だから主人公はすべてが過去になったような老人にしようと。そんな風にしてストーリーが生まれました」と動き出した。

劇中では、最新アルバム「暁のファンファーレ」の収録曲「月光」「シンフォニア」や、「生命線」「アカイヤミ」「コバルトブルー」など人気楽曲が老人の思いを代弁する。選曲は、「ストーリーの間にこんな曲がきたらどうだろうか」という熊切監督の提案と、「ライブの魅力を伝えられる曲がありつつ、単純に心情を歌詞で伝えるのではなく、そのシーンが色濃くなったり相乗効果がでる」楽曲を思い描くバンドのやり取りの中で決定したという。

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今までとは違った映画作りに挑んだ熊切監督は、「最初の編集では膨大な量の映像素材に呆然としたんですが、だんだんメンバーの演奏が会話劇のように見えてきて、そこから素直につなげていくことができました」「演奏シーンに関しては、とにかくどこまで近づけるかという感じでした。カメラノレンズが曇るぐらいに、彼らの熱を映しとりたかった」と述懐。メンバーも「すごくシンプルに演奏と曲に向き合えた体験だったと思います。熊切さんが撮ってくれる映像に対する信頼感もすごくあって、この人の映像の中に入ってみたいとまで思っていたから、ミュージシャンとしてやることに集中していた感じがする」(ギター・菅波栄純)と充実した現場になったようだ。

初タッグとなった熊切監督とバンドだが、互いにどのような印象を抱いたのだろうか。

「監督の映像はすごく緻密な感じで、映像の中の隅々にある物の佇まい、色、汚れ具合とかが端っこまで完璧で、リアルさとそこにいる人の気持ちが背景まで滲み出ているような幻想的な感じが混ざっている映像だと思うんです。そんな風にすごく緻密な人なのかなと思ったら、豪快なところもあって。奥が深い印象があります」(菅波)

「取材やライブの打ち上げでお酒交じりにしゃべってみて、監督の人間性が見えたというか……愛にあふれた人だなって(笑)。漫画みたいになっちゃったけれど、受け入れてくれる雰囲気がすごい。無理にこうしようっていう感じがなくて、自然な感じがしてそれがすごく優しい」(ボーカル・山田将司

「寒いところだったら寒そうな感じ、夏の畳のうだるような暑い雰囲気が画から伝わってくる人だったから、オレらの演奏の空気感もストレートに伝えてくれる人なのかなって。もわっとした感じや、感情も含めた空気感を描いてくれそうだと思っていました」(ベース・岡峰光舟

「最初の打ち合わせの後に僕だけ飲みにいく機会があって、『オレはこうなんだ』っていう爆発の瞬間があって、狂気を抱えていて世の中の完成されたものに挑んでいきたいっていう野心がある人なんだなあと。寡黙だけど、表現に対するエネルギー、美学を貫き通す熱を持っていることが感じられたので、絶対これはいいものにできるなっていう実感がありました」(松田)

「僕は彼らの人柄が本当に好きです。音に対してはもちろん真しに向き合っていると思いますし、ある種不器用に、ちゃんとあがいて生きている感じがして、そこが好きですね」(熊切監督)

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信頼関係を構築した5人で作り上げた本作。熊切監督は「まだ客観的に見れない」としながらも、「自分としては変わった映画ができたらなと思っていたので、『見た後に泣きました』と聞くと伝わったんだなって感じがします。ウラジオストクのリアクションも最初は本当に不安でしたけれど、上映後のリアクションを観て、国を越えて伝わるものがあったんだなと感じました」と自信をのぞかせる。バンドの4人も、それぞれが込めた思いを語ってくれた。

「曲が映像と一緒になると情報が増えるから、意味を持たせすぎてしまう怖さ、言い過ぎてしまう心配もありましたが、監督が曲を愛して、威力を発揮できるような映画に仕上げてもらえた感じがします。それによって、何か新しいものが生まれたんじゃないかと思うし、受け取ってもらえるメッセージを作れたという自負はあります」(松田)

「自分たちを映画館の大画面、大きな音で見る感じがすごく新鮮で、映画館で見るということはこんなに面白いことなんだと思いました。見終わった後に爽快感もすごくありましたね」(岡峰)

「映画の軸が『生』『愛』だと思うので、見れば何か伝わる。心の旅ができる映画だという気がしていて、背中を押して寄り添ってくれる音楽があったり、見終わった後に大切な人の存在を確認したくなったり、その人との関係をもうちょっとちゃんとしようかなと感じられるような映画になっていると思います」(山田)

「感情移入できないんじゃないかと思ったんですが、普通にジーンと感動して。オレらの音楽も監督の作品も、簡単に泣かしにかかるのではなく、説明できないけれど確実に泣けてくる感じで、共通点のひとつが何かに執着を持った人物が出てくることだと思う。今回の老人にとってはおばあさんへの思いが、おじいさんを生かし続けている。執着ってキレイなものではないけれど、それが人間臭くて、生きているってことなのかもしれないし、清々しさを感じるのはそういう執着からの解放感なのかなと思います」(菅波)

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