岸辺の旅のレビュー・感想・評価
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ファンタジーやホラーを感じさせない。
監督の黒沢清は尊敬する評論家・蓮實重彦氏の立教時代の愛弟子である。黒沢の作品は初めての鑑賞で、蓮實氏の講義を直接聴いていた作家がどのような映画を撮るのか楽しみだった。
TVドラマみたいな画だなというのが率直な感想である。死んだ夫の亡霊が妻を旅に誘い、そこで彼が人々に会ってもらうという物語は多分に映画的なのだけれど、浅野忠信や蒼井優、柄本明らの好演も素敵だったけれど、幽霊と一緒に過ごしているはずの深津絵里にその不思議な体験をしている人間の高揚感や恐れが見えてこないのは何故だろう。何年か出奔してふらりと生きて帰宅した夫にすらあのような尋常な態度でいられるだろうか。
映画なのだから、嘘八百の作り話なのだから、もっともっと不思議な体験を観客は望んでいるとは思わないのだろうか。
死せる夫とただ虚無空間を彷徨う妻の話
またまた黒沢清お得意の怪談ものかぁ。
でも、今回は、いわば「死んだ夫に連れられての道行の旅」、もしくは「道行からの帰還の旅」のいずれかだろう。
ならば、さしずめ、妻と夫の間でのドラマが展開されるのではありますまいか・・・
といった予想は、巻頭10分ぐらいで裏切られる。
不在の3年間の埋めるドラマが何処にもない。
もう、ひたすら虚無空間を彷徨う旅が続く。
黄泉との境を夫婦で旅するハナシなのかぁ。
死んだひとが、生きているひとに混じって、何気なく生活をしている。
それを誰も疑わない。
あの世とこの世の区別がない世界観は面白いが、なにせドラマとしての対立軸もなければ葛藤がなく、映画が進んでいく。
なんだか、こんなヘンな映画観たような気がする・・・
思い出すと、フランス人監督が阪神淡路大震災をモチーフに死者の魂を描いた『メモリーズ・コーナー』の希薄感を思い出した。
この映画もフランスの資本が入っているもよう。
うーむ、黒沢清監督も阿(おもね)っちゃったのかしらん。
それとも、ここへきて、ドラマを構成できない弱点が露呈しちゃったのかしらん。
深津絵里
1999年の夏休みの少女がモンペ長靴を履いた未亡人になる。彼女は顔や手のアップに耐えうる女優になっている。日本のどこにでもある美しくない風景が、どこにでもある感じに、ダサい感じに、掛け値なくピタリおさまっている。大友良英の時代掛かった音楽含め、まるでダグラスサークかどうかは分からないけれど、凄くエンターテインメント、メロドラマ。餃子屋の女房の美しくない涙、娘の生々しいチェックワンピース、奥貫薫の幸薄な白い顔、すき焼き鍋を投げつけもする小松政夫の怖い顔。なんだか本気。そのカメラワークに、対象の切り取り方に、アップとズームとキスに、ハッとさせられる。
癒やしの怪談譚
昔ながらの映画の生々しさ、リアリティがありました。まさに、監督らしいホラー感が表現されていて、なおかつ、笑えて、涙できて、しかも癒される・・・見事というほかありません。
絵の美しさというものとは縁遠い作品です。しかしながら、力強さはどんなアクション映画だろうが太刀打ちできないものがありました。
深津絵里という女優の素晴らしさが、非常によく表現されていたように思います。彼女の演技ひとつで恐怖し、笑い、涙しました。
すべてカットカットで表現されているように感じて、すげぇなぁと思った次第。
作家の想像力とは?
3年間行方知らずの夫が突然帰ってくる。
「僕は死んでるんだ」その言葉に、その姿に、夢か現実か戸惑う妻。そして「3年間の僕の足跡を追った旅をしてみないか」という言葉に、いまの現実もつまらないしのってみたのだが。
そんな冒頭のシーンから僕は試される。
あなたは現実=ロジックだけで生きているの?
それとも、霊的で幻想的な世界も受け入れるの?
当然、僕は、論理だけではない、情動みたいなものにも左右されるし、幻想的な世界も好きな人間ですよ。とは、答えてみたもののやっぱり、ちゃんとした筋がないと戸惑うよなという自分もいたりして。その世界にどれだけ自分を忘れて、ゆだねられるかというところが大きいわけです。
それでどうだったのか?
ある程度その流れに乗っている自分がいたんだよね。特にピアノのエピソードのところは自然に涙が流れたし。
妻の瑞希がこんな物語ってあり?、と思いながらもその世界を受け入れ、解放されていく様子も見て取れたのだ。それにしては、ラストシーンはちょっとあっさりしすぎだと思ったのは僕だけだろうか。
この作品、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞したという。映画通には、国際的にもこの死生観は認められたのだろう。これを書いた小説家も、それを映画にしようとした黒沢監督も一般的な人からみれば、風変りな人。でも、アートの観点からは、きわめて想像力の強い人といえるだろう。
とても良い作品でした
一言でいえば夫婦愛を描いた作品となるかもしれませんが、それだけでなく普通の生活やそれにまつわる物事や人への慈しみ、などが描かれていたように感じました。
日本(または東洋)的な死生観もおのずと表されており、その点で河瀨直美監督や是枝弘和監督の近作とも共通するものを感じ、個人的には興味深かったです。
あまり多く黒沢清監督の作品を観ておらず、これが4作目ぐらいですが、断然一番好きな作品でした。
深津絵里は後半になるにつれてドンドン良くなっていったと思います。ラストの2つのセリフには胸が熱くなりました。
大いに評価されるべき作品だと思います。
素晴らしかった。
黒沢監督の作品は非常に好きで、これまで沢山観てきたが、今までの作品に比べとても映画として、強くなったという印象を受けた。
テーマの所為でもあるかもしれないが、大人な作品と、メッセージ性を強く感じた。
またセリフで多く語らせず、役者の表情や演技力で語る、それを映像として映す監督の表現の仕方にも感動した。
そのような意味でも、映画である必然性を感じた。
とても素晴らしい作品でした。
不思議なストーリー
予告編で、興味があってみました。
不思議なファンタジー的なストーリーでした。
奥さんの思いがゆっくりとした展開で旅?を通して昇華していくような。
現実派には向きませんが、夫婦はいろいろな形がある。
そう思えた映画です。
深津絵里さんの背中、綺麗でした(笑)
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