「不思議な夢を見たような記憶を残させる映画」岸辺の旅 月野沙漠さんの映画レビュー(感想・評価)
不思議な夢を見たような記憶を残させる映画
2016/04/19、ポニーキャニオン本社で行われたBD、DVD発売プレミア試写会で二度目の鑑賞。同時に黒沢清監督を招いてのトークショーも行われました。
去年10月にも川崎チネチッタで観たのですが、作中での死者の扱われ方が生きてる人達から見てどういう位置づけなのか釈然とせず、モヤモヤしながら観たのを覚えてます。不思議な世界観で変な夢を見たような記憶のように印象深く残っている。観た人こういう記憶をに残すということはきっといい映画なんでしょうね。
自分は両親がもう鬼籍に入っているのですが、たまに夢に出てきます。この映画の中での優介みたいに普通に生活していて、自分も普通に接している。亡くなったはずの人とまた会えた安心感と夢がさめてやっぱりいないんだと気づく寂しさを感じる。それと同じような感覚を残してくれる映画でした。
二回目の鑑賞では死者の位置づけも気にならずにそういう設定としてすんなり受け入れて鑑賞できました。そうすると雑念が消えて、上で述べたような鑑賞後感を残すことができました。矛盾した設定を受け入れられない人には厳しい映画かも。
それから蒼井優が演じる若い浮気相手の朋子と深津絵里が演じる妻の瑞希が対決するシーンが有ります。表面上静かな言葉だけのやり取りですが、とても見応えのある戦いでした。おっとりした瑞希が初めになんとか必死に攻勢をかけようとしますが、気の強い若い愛人朋子にあっさり完膚なきまでに叩きのめされます。トークショーで黒沢監督は朋子の圧勝で終わりますと役者さんに説明したそうですが、自分には朋子の負け惜しみにしか聞こえませんでした。朋子はまだ優介に未練があって、付き合っていた間も優介はいつか奥さんの元に戻る人だとどこか感じていたのだと思う。どうしても勝てない本妻への負け惜しみで出た容赦無い言葉だったようにしか聞こえなかったのです。とにかく、この二人の女の対決のシーンは見ものです。
それから黒澤監督は原作にどうしても勝てなかった部分として、旅の壮大さだとおっしゃっていました。原作ではもっと時間や場所の感覚がわからなくなるほどいろんな場所を巡るそうですが、この映画のロケは2ヶ月ほどの期間で千葉と神奈川県だけで撮ったそうです。今の日本映画の現状ではそんな壮大な場面を撮るような予算は出ないんでしょうね。それでも綺麗な映像だったし、印象的なシーンもたくさんありました。
あまり理屈っぽく考えず、ゆるい気持ちで観るべき映画ですね。