「難しいテーマを上手くまとめている」水の声を聞く よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
難しいテーマを上手くまとめている
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まず、シナリオが面白い。かなり怪しげな新興宗教の教祖を務める在日の少女。周囲で彼女を担ぐ人々。救いを求めて集まる人々。その全てが、何らかの閉塞感にとらわれている。そして、その人々の変容ぶりが、現代社会の病的な部分をあぶり出している。教祖自身も、作り上げられた教祖の役割に、自らの生きる意味を重ねはじめるところ、俳優の迫真の演技もあり、切なさで溢れている。
そして、映画が進むにつれて、教祖とその父親、祖母とその故国の姿が少しずつ露わになっていく。家族のような小さなものも含めた歴史や自然の中で我々は生を営んでいるという当たり前のことを提示しながら、主人公たちの破滅と再生が描かれる。
主人公を演じる玄里がとても素晴らしい。普通の若い女の子が、自らの生み出したものに引きずられるように、ある信念の塊のようになっていく様を、自然に表現している。他の共演者たちも、ステレオタイプな登場人物たちに、陰翳を与え、それぞれのドラマを描くことに成功している。
済州島の事件や、精神病、宗教といった難しいテーマを、たくさん盛り込んだ、非常にリスクの高い挑戦が、とても良い作品を生み出したと思う。
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