「妻への愛の数だけ、周囲との絆の数だけ、石を積む」愛を積むひと 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
妻への愛の数だけ、周囲との絆の数だけ、石を積む
アメリカ人作家の小説を、舞台を北海道に置き換えて映画化。
違和感ないくらいの“THE日本映画”に仕上がっている。
東京の町工場をたたみ、北海道美瑛に引っ越して来た篤史と良子。妻の望みである石塀を作りながら夫婦二人第二の人生をスタートさせ始めた時、良子が急逝。悲しみに沈む篤史は、良子からの手紙を見つける…。
とにかくデキた女房。
石塀作りも暇を持て余す夫の事を考えて。自分の死後の夫を思い手紙を。
夫は不器用で無愛想だが、根は広く優しい事を知っている。
人生の苦楽を共にしてきたからこそ、お互いを思い合い、分かり合える。
こんな夫婦になりたい…と、誰もが思わずにいられない。
良く言えば憧れ、悪く言えばファンタジー、単なる夫婦愛の物語だけだったら退屈してしまう所だが、妻亡き後の夫が周囲の人々と交流を深める様がミソとなっている。
石塀作りを手伝う造園会社見習いの青年・徹。
無愛想で恋人・紗英にしか心を開かず、篤史と似ているものがある。
ある時、紗英の妊娠が発覚するも、紗英の両親が猛反対、強引に引き離そうとする。
自分に自信が持てない徹を後押しし、男としてけじめをつける決心をした彼を傍らで見守る…。
篤史と良子の一人娘、聡子。
ある出来事をきっかけに、父娘はわだかまりを抱えたまま疎遠。
北海道で一人暮らす父を心配する娘、東京で一人暮らす娘が内心気になる父。
本当は思い合っているのに、素直になれない。
父娘の関係の修復は…。
若者の恋。
親子ほど年が離れた若者との交流、娘との関係。
いずれも困った時に、それを見越したかのように、妻からの第2、第3の手紙が導く…。
佐藤浩市&樋口可南子がさすがの名演。
若いカップル、野村周平&杉咲花がフレッシュな魅力。
紗英の義理の父親役で、柄本明が絶妙な田舎親父ぶり。
そして特筆すべきなのが、舞台となっている美瑛。
日本で最も美しい村とされる美瑛の風景が、登場人物たちを抱き、見る者の心を捉えて離さない。
俗かもしれないが、こんな土地での生活…憧れる。
心温まる感動作故、出来すぎている点や難点もある。
不良仲間の強引な誘いを断れず、犯罪に手を染める徹。その時、押し入った家、盗んだ物は…。幾ら妻の願いとは言え、こんなに寛容でいられるだろうか。
徹と紗英の交際に反対する紗英の両親の描かれ方が典型的。特にヒステリックな母・吉田羊はウザい。(柄本明は「北の国から」の某エピソードの菅原文太のように最初はおっかないが、妻を失った篤史をかまったりと好助演してるのに…)
樋口可南子と杉咲花、ダメ男を支える女神のようだが、さすがにデキすぎて、男の願望か理想。
格別素晴らしい!…というほどでもないが、後々思い出した時、ああ、いい映画だったなぁ、と思える良作。