「演出が上手」アイアムアヒーロー saikimujinさんの映画レビュー(感想・評価)
演出が上手
原作を知らずに見た。
監督が、「製作委員会にテレビ局が入ってないから映画会社にしかできない事をしようと思った」と言っているのを聞いて、これは!と思い見に行った。東宝もかなり気合い入っていたらしい。
テレビ局が入ってなくて本当に良かったと思う。
グロさは個人的にちょうど良かったし、
何より笑いのバランスがちょうど良かった。
アレより増えても緊迫感が削がれて冷めるし、アレより少なければよりシリアスになりありきたりなパニック映画になりかねない。
ショッピングモールが舞台になるのはゾンビ映画を発明したジョージロメロ監督の「ゾンビ」のオマージュだろう。
「ゾンビ」の劇中で、「ゾンビ達は生前の記憶が微かに残っていてショッピングモールに集まってくる」と言うが、そこをより強調したのが今作だ。
キャットフードが好きって設定は、第9地区のオマージュなのかな?そこも良かった。
有村がインタビューで猫をイメージして演技をしたと答えた様に、彼女は無口で、よく寝て、じーっと状況を見ている。そして時に猫パンチをする笑
腕時計の伏線や、妄想癖の伏線も上手く使えてたと思う。
ロッカーでのイメージトレーニングでことごとく失敗する様子は「オールユーニードイズキル」ぽくて良かった。あそこも、冒頭の妄想癖シーンがあるからこそ映える。
思えば「オールユーニードイズキル」も情けない男が立ち向かっていく様に変わる話だ。
ロッカーシーンは監督がインタビューで答えてる様に、この映画で最も重要なシーン。
つまり英雄が大きく変わるシーン。
狭い所から文字通り「抜け出す」事で、彼が勇気を出して一歩踏み出す。
とても良いシーンだと思う。
後半は少しダラけたけど、あらゆる映画は中盤はほぼ必ずダラけるし、今作のラストで名前を聞かれて、「ひでお。ただのひでお」と答えるのも、良い。「えいゆうと書いてひでお」と言わなかったのは、彼が成長したからだ。そして暗転して、ここで初めてタイトルが出る。「アイアムアヒーロー」と。素晴らしいエンディングだと思う。
出版社に原稿を持って行った時、主人公が普通なんだよなぁ〜と言われたが、この映画の主人公の英雄こそ普通であり、その普通からなる情けなさが魅力になっている。これは原作者の経験からなるアンチテーゼなのかなと勝手に推測した。
何も考えずに楽しめる映画、と言っていた人がいたけど、それは違うと思う。
映画が上手く作られているから気付かないが、自然に考えさせるような作りに結果的になっている。そして難しいと思わずに見れるのも映画が上手いからだと思う。
キャラクター達の心情の変化や、状況の説明が、しっかりと演出できているからのものだ。
監督はガンツとか撮ってる人だから、観る前は少し不安だったけど、本当は力のある人なんだと思った。今までテレビ局の入った製作委員会で痛い目にあってたのかもしれない笑
監督は、普通のジャンル映画にしたくなかった、今までになかった映画にしたかった、とインタビューで答えていて、実際にそうなっている。
パニック映画なのにコメディ色が強いし、
(これは原作なんだろうが)ハードル飛びをやるゾンビなんか絶対今までにいないでしょう笑
そういう日常の生活を続けるゾンビは今までになかった。
しかし、初めはゾンビが敵なのに次第に敵が人間になっていく、という設定はゾンビ映画やパニック映画における鉄板のプロットで、それをしっかり踏襲してるのは、あぁこのジャンルの映画の事がちゃんとわかってるなぁ、と思った。
この映画には美女が2人出る。
有村演じるヒロミが美女なのは良いが、長澤まさみの役は美女じゃないほうが良かったのでは?と思う。長澤まさみに罪は無いが。。
こういうグロテスクでバイオレンス満載の映画が昨今の日本でもヒットしているのは、やっぱみんなこういうのが実は好きなんだなと、少しホッとした。笑