劇場公開日 2015年6月13日

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「花火」海街diary ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5花火

2015年6月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

「そして父になる」の是枝裕和監督が、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという当代きっての人気女優を集めて作り上げた群像劇。

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突然ですが、私、花火が好きです。光と音を忘れた暗闇に、唐突にさんざめく光の奇跡、咆哮。その七色の閃光は時代を経て、人の心を魅了する。そんな素敵な芸術、他にあるかしら。

例えるなら・・そう、是枝監督のあの映画。原作の話題性、現代の嗜好にただすり寄って、スクリーンを埋め尽くす種々雑多な映画の「闇」。その中にあって、突然に咲く「魅せる」光。フジテレビ映画が批判されながらも、伝統として受け継いできた「正統娯楽映画」の脈の中で、現代だからこそできる女優映画という「本当に美しい、圧倒される存在感」を咲かす。こんな爆発力に満ち溢れた映画芸術、最近はなかなかお目にかかれない。そんな、素敵な裏切り。

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突然ですが、私、花火が好きです。連続して大仕掛けの花火が咲き誇る中で、突如「ポッ」と一線のオレンジだけが昇る。その儚い美。それが闇を引き裂く、美。こんな素敵な芸術、他にあるかしら。

例えるなら・・そう、是枝監督のあの映画。長女が腹違いの四女の身長を、家の柱に刻むあのシーン。長女は、四女に話しかけながら「そっ」と四女の髪を直す。どんな言葉よりも、印象的な演出よりも、私にはあの一瞬の動作に、心が震えた。愛が、あった。愛おしくなった。そんな、素敵な驚き。

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突然ですが、私、花火が好きです。火薬が奏でる光もさることながら、沈黙を塗りたくる、音。その響く音色だけでも、胸が躍る。鼓膜が、躍る。ドキドキする。そんな素敵な芸術、他にあるかしら。

例えるなら・・そう、是枝監督のあの映画。この作品には、花火大会のシーンがある。でも、闇を切り裂く火薬の光は出てこない。音が、あるのみだ。その音には、現代を華やかに照らし出す四人の女優の柔らかな笑顔が寄り添う。そう、花火はすでに打ちあがっているのだ。観客の目に、頭に、心に。作り手はそれを感じ、あえて光を遠ざけた。現代の「俺を観ろ」と叫ぶ作り手にはできない芸当だ。そんな思慮深い優しさがじわり満ちる、そんな嬉しさ。

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闇を照らす、光。どんな映画もそんな存在であってほしいと願うけれど、そうはいかない。気持ちが荒む映画も、ある。でも、この一本はきっと、観る人の闇に、そっと語り掛け、果てしない黒を閃光で塗りつぶす力をもつはず。希望になるはず。きっと。

そんな花火が、私は、大好きです。

ダックス奮闘{ふんとう}