「続く愛のメロディー」ラブ&マーシー 終わらないメロディー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
続く愛のメロディー
音楽には疎いが、“ザ・ビーチ・ボーイズ”の名は聞いた事がある。曲名は言えないが、聞けば聞いた事もある。実際、劇中でも。
音楽に疎いので、メンバー名は言えない。
中心メンバーで、楽曲製作を一手に引き受けていたブライアン・ウィルソン。
天才ミュージシャンと言われる傍ら、プレッシャーと苦悩…。そして再起。
全盛期の60年代とスランプ時の80年代を交錯して描く、彼の音楽伝記作。
天才、異端児、時代の寵児…その苦悩は音楽伝記映画のステレオタイプだが、本当にそうなのだ。
クィーンのフレディ・マーキュリーもそうだが、自分の創りたい新しい表現は分かって貰えない。
求められる音楽は似たようなものばかり。
しかも、前以上の大ヒット曲を。
そのプレッシャーたるや。
映画の世界でも、スピルバーグや宮崎駿のプレッシャーは計り知れない。あの黒澤明でさえ自殺未遂したほど。
クリエイターやアーティストが何かを生み出すとは、身を削り魂を費やすものなのだ。
プレッシャーや確執から逃れるように麻薬に溺れ、精神を病み、幻聴が聞こえ、奇怪な行動を取るようになる。
メンバーもレコード会社も実の父親からも怪訝な目で。
華やかだった60年代が終わりを告げる。
そして80年代。
担当医師から妄想型統合失調症と診断。
かつての天才ミュージシャンとは思えず、過去の栄光…。
そんな時出会った一人の女性メリンダ。
瞬く間に互いに恋に落ち、ブライアンにとっては精神的な支えになる。
が、担当医師は2人の関係やメリンダの存在を疎ましく思う。
メリンダは担当医師の診断を不審に思い始める…。
一人の人物を一人の俳優が特殊メイクなどで演じきるのが一般的。
しかし本作のユニークな点は、一人二役。
60年代をポール・ダノ、80年代をジョン・キューザック。
似てる似てないはさておき、両者共好演。
特に、ダノの繊細な内面演技や精神を病んでからの何処か掴み所の無い雰囲気は特筆。
また、メリンダ役のエリザベス・バンクスも素晴らしい。最近は監督やエンタメ作品の助演が多いが、美しく魅力的で演技も確かで、改めていい女優だと思った。
Wikipediaなどでは本作の事はそこまで詳しく触れられておらず、知られざる逸話。
担当医師の診断は誤診。そう思い込ませ、洗脳と言っていい。(ポール・ジアマッティがさすがの憎巧演)
それを救ったメリンダの献身的な愛。
2人は結婚し、子供も授かり、もうザ・ビーチ・ボーイズとしてではないが、ブライアンは今もソロ活動を精力的に続けているという。
それもこれも運命の人との出会いがあって。
ラストシーンは何と幸せに満ち溢れている事か!
2人の愛のメロディーは続く。