「絵と雰囲気」娚(おとこ)の一生 Tohnaさんの映画レビュー(感想・評価)
絵と雰囲気
原作未読。
全体的にやや端折っているシーンはあれど、魅せるところは魅せており印象に残った。物語の締めも綺麗だった。
だが、一番良かったのは雰囲気であることは間違いない。
鹿児島の田舎が舞台ということで、ああいった人よりも緑、建物よりも空間が勝る(あくまで雰囲気ですが)環境に行ったときに感じる空気が画面越しにも浸ることが出来た。
無言でご飯を食べるシーンや家事、染め物(?)をするシーンなんかも雰囲気を出すうえでは非常に良かったと思います。
私は都内やその近郊で生きている為、下駄が敷かれた石と接するカッ…カッという非日常の音にも魅力を感じた。
本作はそういった自然な魅力を上手く描写していて楽しめました。ここは細かく気に入った点を挙げると、きりがない。
特に気に入っているのは、前述の下駄や木製の飯櫃(炊いたお米を入れる容器)、離れにある染め物(?)のゆらめき等々。恐らく見返すほどに見つけられると感じた。
舞台とそれを壊さない道具類のすばらしさは、都会で過ごす人ほど感じると思う。
次に物語についてもお話したい。
本作は東京での仕事や恋愛に疲れてしまったつぐみが祖母の家がある田舎へと赴き、祖母の死に傷心していたところで突如家の離れに住みだした海江田という大学教授と共同生活を始める…という物語。
つぐみは自分とかけ離れたおじさんに惹かれていく訳だが、この展開はなんともフィクションであることを感じることが多かった。
急に現れ掴みどころのない行動をする海江田のことを気にするようになり、大胆な行動によって流されそうになる気持ち。そして、彼の様々な面を知り、彼と共にいることに幸せを見出す。
王道だと思うし、予想は出来る展開だ。しかし、海江田(豊川悦治)のキャラが突出していることは間違いない。
白髪交じりのおじさんなのだが、だからこそ声を荒げるシーンに説得力があり、掴みどころのない性格に大人の余裕を感じる。そして、思いのままに素直な行動もとる。どうしようもなく魅力的なのだ。
広告でも使用されているが、足を舐めるシーンは彼の「全て受け入れる」という思いからの不器用だがまっすぐな行動だと考えた。ここまでの惹かれていくシーンを見た後だと、二人が充実する区切りに相応しいシーンだ。
※そして、その辺の濡れ場よりもエロティックである。
終盤の展開はエンディングに向かう為にくっつけた感じる。が、またしても海江田の魅力が爆発する。歳の差があり、かつて結ばれるに至らなかったこともあり、つぐみが他の男のもとに行ってしまうのではないかと考えてしまうのだ。
思いと過去ゆえに脆さを露呈するのだ。完璧な人ではないことが存在感を確かなものにした。
最後には綺麗に結ばれ、かつて受け入れられなかった思いは実る。海江田のキャラクターは見事だ。恐らく私の頭を離れることは今後ないだろう。
ここまで書いていても感じたが、やはり物語が綺麗すぎる。その点はどうしても否定できない。一様に悪いとは言わないが、期待するべき点ではないだろう。
最後に私の感じた思いを述べる。私は映画を見た後に思い出すと、キャラクターを想起することが多い。この映画も海江田というキャラを想起する。
しかし、それ以上にあの田舎の「家屋」が忘れがたい。二人が過ごし、過ごしていくであろう舞台。
海江田を過去から見ている「家屋」は、最早一人のキャラクターといえるのではないだろうか。
以上でレビューを終える。私がこの映画の雰囲気と舞台のすばらしさに魅せられたことが伝われば幸いである。
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上述の魅力は映画ならではと考えられるし、その点では良い。
だがそれ故に、私はこの映画と原作に決して同じ感想を抱くことはないだろう。原作がどのような作品なのか、是非読んでみたいと思う。