「オタクが自分の言葉を獲得する瞬間」ぼんとリンちゃん えらさんの映画レビュー(感想・評価)
オタクが自分の言葉を獲得する瞬間
長尺のカット、自分の言葉を持たない主人公など僕の大好きな『SR サイタマノラッパー』みたいだなあ。などと思いながら眺めていました。ただ大きく違うのは、ぼんはイックと違ってまさに彼女も何度か口にしていた「芸」を持っていないこと。その上本当に(ネットスラング、アニメ漫画の台詞も含め)他人の言葉でしか話せない典型的なオタク。佐倉絵麻さんの演技も自然で、もうそういうどこにでもいるオタクにしか見えない。だから見ていて気持ちが良くない…自己嫌悪なのかもしれない。
リンも言っていたように、ぼんはその上自分勝手。その独善性がピークに達するのがホテルでの口論のシーン。あのシーンで僕はすっかり⚪︎⚪︎⚪︎に肩入れして見てしまっていた。勿論周りの人を不安に不幸にする彼女の行動は責められても仕方ないものだけど。なので、ぼんのことはすっかり、嫌いと言っても良いレベルにまで思っていた。
でもぼんが、世間知らずで独善的なオタクが自分の言葉で悩み、人生について考える(最早哲学している)ラストシーンには不思議な感慨があった。ていうか書いてて思ったけどやっぱりサイタマノラッパーだこれ。イックが自分の言葉でラップを紡いだのに対して、ぼんはひたすらただ早口で喋り続けるのもオタクならでは感があって良い。そして、ここで核心を突いてるっぽい事を言うリンを見て、そして彼らがやっているゲームを見て「あっ」と膝を打った。どことなくオタっぽくない(実際はオタクらしい)リン役高杉くんのキャスティングにも納得がいった。上手いなぁ…。
唯一気になったのはキモオタのはずのべびちゃんの滑舌が良すぎで声が通り過ぎで見た目以外オタクっぽくないことですかね。
なんか見終わった後はもやもやしていたんだけど、こうやって整理してみるとすごく良い映画だったんじゃないかと思います。