「言葉にならない。」ショート・ターム くーさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉にならない。
子どもたちが置かれた環境のあまりの酷さ。
親は選べない。
ネイトの軽薄さ。
マーカスの底知れぬ怒りと悲しみ、生きづらさ。それでもなお、他者をいたわれる優しさ。
ジェイデンの癒されない怒りとつらさ。
所長に「良い人だ」と評されるジェイデンの父親。
そんなだからジェイデンは本当のことを言えない。
「長年この仕事をしてきた」だけで「私は間違ってない」なんてあの所長はクソだ。
マーカスは歌で、ジェイデンは物語で、自分の痛みと辛さを表現できて、それを聞いてくれる大人がいて、よかった。
でも、そんなことで救われるような浅い痛みじゃないんだよね。
よく、怒りは二次感情だと言われる。
本当は別の感情があり、そこから派生するものだと。
それを解消せよと。
そんなこじつけみたいなことしてまで、怒りを否定するのは何なんだろう。
怒りは怒りだと思う。
親が酷い、そのせいで自分の人生、酷いハードモードになってる。
それは、怒り以外の何ものかなんですか?
そんなわけあるか。
サミーがぬいぐるみを取り上げられたように、
専門家につながれたとしても、それが自分にとって良い人とは限らず、救われるとは限らない。
救われないまま歳を重ねて大人になってしまい、
生きづらさゆえに色んなことがうまくいかないと、
周囲は自己責任、という目線を向ける。
親のせいでこんなことになっていたとしても、そこまで理解して寄り添おうとしてくれる人は、いない。
重いからと監督自らカットしたらしいけど、フルバージョンが観てみたい。
人生の不条理を描いた、最高の映画だ。
こういう真面目な映画を重いと言って敬遠するような人が、私は無理だ。
マーカスの歌と、傷ついたジェイデンのために誕生日を祝おうと皆に呼びかけるところ、涙が出た。
メイソンが養子だったと知ってびっくり。
彼が、グレイスの瞬間的に感情が振り切れて他人を振り回してしまうのに、見放さない包容力は、愛されて育ったゆえに培われたものなんだろうなと。
暴力や暴言を直接受けたわけではない。
それでも、親の不仲や、感情的なところ、に傷付けられていたんだと、大人になって理解した私にとって、寄り添ってくれるような映画だ。
人として社会で生きるためには、子に衣食住だけを与えるんじゃダメだと思う。
必要なものを与えられず、大人になって生きづらさを感じてるのに救われないままの自分は、この映画に、マーカスとジェイデン、グレイスとメイソンに、少しだけ楽にしてもらった気がする。
どんな酷いことを言っても見放さないメイソンがいてグレイスが羨ましい。
マーカス、お幸せに。。