劇場公開日 2015年11月13日

「無理難題への挑戦…」ハーモニー しゅわとろんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 無理難題への挑戦…

2025年10月27日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

夭折の作家・伊藤計劃氏の作品をアニメ化する「Project Itoh」シリーズの1作。

私は原作小説のファンである。衝撃的な展開と、冒頭から仕込まれていた緻密な伏線に心を奪われ、それを機にアニメ版も鑑賞する事にした。

「大災禍」と呼ばれる混乱を経て、過剰なまでに優しく健康的な監視社会が築かれた世界。WHOの査察官・霧慧トァンは、その社会の息苦しさから逃れるため、自殺未遂を起こした過去を持つ。世界中で同時多発的に自殺が起きるという事件の調査に乗り出した彼女は、その中で彼女を自死へと誘った少女・御冷ミァハの影を見る…。

作画クオリティ、ふんだんに使われたCG、独創的なデザインなど、評価すべき点は様々ある。だがしかし…手放しで絶賛出来るか、と言われればそうではない。

……そもそもの話だが、原作小説を映像化するのは極めて無理がある。SF小説としての凄まじい情報量、重く難解なシナリオやメッセージ性、そして何よりも「小説だからこそ」成立する伏線とトリック。アニメに限らず、映像化する事そのものに全く向いていない。無理難題と言っても良いだろう。そんな作品をそれでもアニメ化しようとした制作陣の勇気には敬意を表する。

あの原作を2時間弱に纏める事が出来た時点でかなり頑張っているとは思うのだが、私が個人的に気になったのはシナリオの改変や映像化に当たっての展開である。
冒頭の時点で、小説に仕込まれていた伏線の答えが明示される。完全初見ならば何のことやら分からないだろうが、原作読者は一瞬でその意味に気付いてしまうだろう。読者としては、映画開始早々に興醒めだった。
そしてラストの改変。全てに決着を付ける際のセリフやトァンの心情に、GL、百合的な要素がかなり盛られている。……正直「ハーモニー」という作品にそんなものは求めていない。原作の冷たくも物悲しい雰囲気を期待していただけに残念だ。事を終わらせた後の下りもカットされており、「見たいものを見られなかった」感は否めない。

原作ファンとしては少々ストーリーにおいて残念な点が目立つ印象だが、それ以外は先述したように中々良い出来だ。
声優陣は豪華で実力派揃い。特にミァハ役の上田麗奈女史の演技は凄まじい。ミァハの設定にピッタリな、儚げながらもどこか無機質で恐ろしい声。この演技を聞けた事はこの映画の最大の評価点と言っていい。この芝居で当時弱冠20歳と言うのだから恐れ入る。

万人にオススメできる内容ではない上に専門用語も多く、初見で観るにはかなり難しい映画である。物語を知りたいなら、原作を読む事を強く勧める。
その上で声優陣の演技や、戦闘シーンといった映像ならではの美点を味わう、というのが、この映画の楽しみ方だろう。

しゅわとろん
PR U-NEXTで本編を観る