「痛みは感じないですけどね」虐殺器官 美紅さんの映画レビュー(感想・評価)
痛みは感じないですけどね
原作未読で視聴。この三部作企画のシリーズも初めて見ました。
全体的に足りてない所の多い原作依存の映画という印象でしたが、見ている分にはわりと楽しかったです。
劇場終了後は、どういうこと?という感じで主人公の最後の行動の意図が理解できないままでした。原作既読の方の解説を読んでやっとオチが腑に落ち、ハウンドドックだ!などの説明不足だったシーンもあらかた理解しました。
愛する妻と娘がテロに巻き込まれた時自分は他の女と寝ていた、という何度も何度も描かれたあのシーンの悲しく滑稽で空虚な感じが美しくて好きでした。
毎回ほとんど第三者か女視点でしか描かれてなく、あのニュースを眺めていたジョンの背中が何を思っていたのか直接は描写されなかった(ように記憶してるのですが)のが良い描写だったと思います。
その後ジョンが何を思ってどんな行動にでたのかは、とうとう彼を捕縛した時聞かされることができます。
家族の為でもなく自分の為でもなく滅私されたら奉公するしかないという典型的な自分が何ももってない故の奉仕の精神で彼の視点からアメリカを救う極論を走っていたジョンの中では浮気相手の女もなんの価値をもっていなかったように見えますが最後の最後だけ報いたいとかいっててどういう存在だったんだ?と思いつつまあ死んじゃったらそう言ったけど生きてる間は何も省みてあげない程度の存在でしたよねやっぱり…と落ち着きました(これは全て映画のみの印象です)
この映画一番のツッコミどころだったのが主人公おまえいつの間にあの女にそんな懸想を…?という点で、原作で読んだらゆっくり仲が深まっていく描写もありそうですが映画では尺がなかったのかスパイとして潜り込んだら速攻いつのまにか恋に落ちてたんだみたいな展開でお前スパイだよね!?って笑っちゃいました。
未来的管理社会で、非正規暴力部隊にいる主人公も仕事の前は毎回感情コントロールされ良心も痛まない痛覚も感じないという知らず知らず虐殺を行うメンタルコントロールをされているという設定で、人を次々と殺す戦闘中の画面はわざとFPSのような簡単であっけないゲームのようなちゃちな演出になります。インドだかで全員15歳以下の子供達の部隊を次々撃ち殺すシーンがその最大の目玉で、そういうのが好きな人は好きそうな映画といえそうでした。
私が一番好きだったのは、仲間の陽気な後輩が無線で「肩がやられました。痛みは感じないんで平気ですよ」「外の様子はどうですか?」などと言っているのを主人公が助けにいってみたら下半身腰から先がちぎれてなくなった血の海状態で上半身だけでスナイパーライフルを撃ち続け変わらず陽気に喋っている後輩を目の当たりにし、絶句しながらも落ちていた足を拾って「これで我慢してくれないか…」といって胴にくっつけようと差し出すシーンです。
気が狂いすぎててめちゃめちゃ笑った。
タイトルの由来の、人間はある文法で虐殺を行う方向へマインドコントロールできる、なぜなら人間には予め脳内に虐殺のための器官が備わっているからだ、という話は「ふーん」という感じで終わってしまうかと思います。作品冒頭からどうみてもそういう話で特に意外性はないです。
ジョンはなぜそんなことをしてまわっていたのか?という点がストーリーを追う根源となっていました。
そしてそれを追う過程で見聞きしたいろいろから主人公にとっての平和を考える…というある程度王道の作りのように思うですが、主人公の思想には罪滅ぼしというか精算という観点が介在しておりあまり救いはない終わりです。
原作での、映画のその後のエピローグはあったほうがラストの展開のわかりがいいと思いました。(というより映画だけで意図を理解するのは困難と思います)
主人公が中村悠一な上に犯人の言語学者ジョンが櫻井孝宏で櫻井さんの演技が最高でテンションがあがりました。
主人公の友達だったマッチョはそんな悪いこともしてないのに主人公が急に女に目が眩んだせいで一瞬で裏切られて殺されて可哀想だな〜と思いました。(作文)
私もあのマッチョが食べてたピザが食べたいです。