「時間が経つほどに戦慄を覚えます‥‥」虐殺器官 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
時間が経つほどに戦慄を覚えます‥‥
言葉を持たない頃の人類は、仲間が死んでも他の動物と同じように放置していた。しかし、『名前』の発見により個体識別ができるようになり、死んだ時には、その仲間の名前を口にすることで思い出す気持ちが生まれ、やがて埋葬することを覚えたそうです。
その後の『意識』の獲得も当然、言葉が先、ということになります。漠然とした概念(例えば、赤い、美しい、など)が先に頭の中にあって、後から、言葉で表現することを覚えた、ということではない。例えば、薔薇という花に対するバラという個体識別の言葉を持つことができて初めて、『薔薇のように』という比喩を使うことが可能になり、赤いという色の共通認識が作られ、別の人間にも伝えることが出来るようになったということです。
人権や平和への価値観が優先される、人類史上でも稀有な幸運に恵まれた現代の先進国社会に生まれ育った人間(少なくとも、意識の中に愛や命や未来についての物語を書いたり読んだり出来る領域を相当に持てる環境にいる人間)にとっては、人間らしさの根源は意識や想像力が先だと思い込みがちでなかなか納得し難いのですが、原始からの人間の脳の本質的な働きのひとつとして、『言葉にはヒトの意識を司る力がある』ということを改めて、思いしらされた気がします。
もしかしたら、現代のアフリカや中東の各地で行われている殺戮だって、キッカケはジョン・ポールではないにしろ、現地の支配層の人間が自己の治める社会の維持・生き残りのために、ある種の脳内殺戮器官が機能しているからかもしれない、と本気で考えています。
コメントする