劇場公開日 2015年3月13日

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「国家という「なぞなぞ」」イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0国家という「なぞなぞ」

2015年4月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

「エニグマ」と名付けられたドイツの暗号機。それは古代ギリシャの言葉で「なぞなぞ・パズル」を意味するそうだ。
物語の舞台は第二次大戦初期のイギリス。ドイツ軍が優勢だった頃のお話である。ドイツ軍の優位をひっくり返すには、通信に使われている暗号を解読する必要がある。イギリスの諜報機関は極秘チームを結成する。そこに呼ばれたのが数学者アラン・チューリングを含む6人の天才たち。このチームは、10人の科学者が24時間働いても解読に2000万年かかるといわれた「エニグマ暗号機」の解読に挑んだ。
本作はすべて事実に基づいて描かれる。
アラン・チューリングは人の頭で考え、作業するには時間がかかりすぎる、と考えたようだ。エニグマが暗号化する「機械」であるならば、こちらも「機械」で対抗しよう、と彼は考えた。彼は1930年代で手に入る部品を組み合わせ、小さな部屋ひとつ分もある「からくり時計」にも似た装置を組み上げてゆく。彼の狙っていたもの。それは電気を使って機械に計算させる「電気計算機」だった。
チームの華ともいえるクロスワードパズルの天才、ジョーンの助力もあり、彼とそのチームはついにエニグマの解読に成功する。しかし、チームの新たな苦悩はここから始まるのである。
ドイツ軍が次のターゲットとして狙っているのは、どのイギリス船舶なのか? それはすべて解読できた。
しかしだ。大西洋上、ドイツ軍Uボートに狙われているすべての船舶が今、一斉に回避行動をしたらどうなるか? ドイツ軍は「エニグマが解読された!」と察するだろう。イギリス諜報部としては「エニグマはまだ解読されていない」と、ドイツ軍に思い込ませなくてはならない。
どの作戦、どの船や航空機が重要なのか? どの部隊に解読した情報を伝えるべきなのか? ドイツ軍に攻撃されてもやむ得ない部隊は? 彼らはまさに命の選別をしなければならなくなるのだ。
結果として彼らの狙いは成功した。ドイツ軍は戦争終結までエニグマが解読されたとは思っていなかったのだ。
数学者アラン・チューリングを演じるベネディクト・カンバーバッチがいいなぁ。天才にありがちな、わがままさ、協調性のなさ、奇異な行動、集中すると他のものが目に入らなくなる。そういった特徴をよく演じている。触るとぽきっと折れそうな繊細な神経の持ち主でありながら、自分の研究への熱意と信念は鋼鉄のような力強さがある。そのような極めて人間的にバランスの取れていない、危うい人物像を描き出しているのは本作の大きな魅力だ
のちに彼の恋人になる女性ジョーンにキーラ・ナイトレイ。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズでの印象がすっかり定着し、おてんば、奔放なイメージがあるが「プライドと偏見」といった文芸作品では抑制の効いた落ち着いた演技も見せている。本作でも、以前のイメージをガラリと変えて、頭脳明晰な女性を演じている。
このエニグマ暗号機解読についての事実は戦後50年間も英国内で極秘扱いとされていたそうである。
暗号機「エニグマ」に関する映画が、なぜか2000年ごろから増えているのは、そういった事情もあるのだろう。
数学者は真理を追究する人だ。
彼らは「数」に隠された「神の声」を聴こうとしている。
真理を追究すること、学問の世界に埋没できる時間は、自分の中に、ある種の「理想郷」をつくりだす。そこには精神の限りない自由が許されている。恍惚に似た、幸福な時空間だ。
しかし、戦争という状況下では、個人の心の中の「理想郷」さえも取り上げられてしまうのだ。
アラン・チューリングの不幸は、彼が天才的な数学の才能を持ち合わせてしまったことにあるのだろう。彼は国家の命運を握る人物として、否応なくそのシステムの部品として組み込まれてしまった。
アラン・チューリングが隠し持っていた「同性愛者」という暗号は国家によって解読され、彼は悲劇的な運命をたどる。
21世紀の僕たちは、アラン・チューリングのアイデアを、手のひらサイズに凝縮し、日常で当たり前に使っている。今や中学生でさえ持っている「スマホ」。
あれはまさに「電気計算機」
今の言葉で言えば「コンピュータ」だ。
それを使う人間の行動は、電気信号に置き換えられ、巨大なデータの塊「ビッグデータ」として解析される時代になった。
「最大多数の最大幸福」という言葉を聞いたことがある。
国家はそれを目指すための手段であるはずだ。
しかし、戦争が終わり、平和な時期になったとしても、国家にとって、人間の命は「数」や「データ」として扱われてしまうのかもしれない。
本作を見たあとで、まるで国家そのものが巨大な「暗号システム」のように見えてくるのは、僕だけではないはずだ。

ユキト@アマミヤ