劇場公開日 2016年4月16日

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オマールの壁 : 映画評論・批評

2016年4月12日更新

2016年4月16日より角川シネマ新宿、アップリンクほかにてロードショー

青春映画のタッチと重厚なトーンを融合させた簡潔な語り口で魅了する

冒頭、眼前にそびえたつ分離壁をよじのぼって、飄々と乗り越えていく青年オマールの雄姿が印象的だ。幼なじみの親友タレクとその妹ナディア、アムジャドとの束の間の戯言、とりわけナディアへのはち切れんばかりの恋情が彼の身体のはずむような躍動感を支えている。しかし、牧歌的なまでの恋と友情の神話時代は、あっという間に崩壊する。イスラエル兵殺害の容疑で投獄され、拷問を受けたオマールは、イスラエルの秘密警察の奸計によって仲間を売ってスパイになるか、常軌を逸した終身刑に処されるかの決定的な選択を迫られるからだ。

ベルリンの壁ならぬ分離壁とは、ヨルダン川西岸地区、パレスチナ市街を縦横に分断するように建てられ、自治区内のパレスチナ人たちは永続的な孤立と占領の幽閉状態に置かれている。それは屈辱的な隷属を強いられた無辜の民の心理的なメタファーでもあるだろう。

生殺与奪の権を握る狡猾な捜査官ラミによって、オマールは手持ちの駒のように獄舎と町場を何度も往還する。やがて周囲から裏切り者の烙印を押され、タレク、アムジャドとの友情、ナディアとの恋愛関係にも疑心がめばえ、意気阻喪の果てに、取り返しのつかない悲劇が起こる。

監督のハニ・アブ・アサドは、深刻な政治的モチーフを取り上げながらも、初々しい青春映画のタッチと冷戦下の酷薄なスパイ映画を思わせる重厚なトーンを融合させた簡潔な語り口で魅了する。オマールが大勢のイスラエル兵に追走され、迷路のような街中を全力疾走するシーンなど極上のアクション映画に匹敵するほどだ。

二年後、ナディアに再会すべく分離壁と対峙したオマールが、もはや心身ともに疲弊しきって自力では登れないエピローグは、その直後に彼が向き合う<真実>とあいまって極めて苦い後味を残す。

高崎俊夫

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